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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)

    『中国政治からみた日中関係』 国分良成著

    巨大国家、内政から分析

     長年、中国の内政をみてきた著者による、現代的な問題意識に基づいた書である。日中関係のこじれ、急速に成長し、国際的にも勢力を伸長する中国が生み出す問題を考えるにあたって必要な視点が織り込まれている。

     冷戦が終結して四半世紀。戦争で疲弊したアメリカは国際秩序への関与を弱め、内向きになりつつある。そこで巨大な存在となりつつある中国は、極めていびつな経済構造と腐敗した政治構造を抱えている。この事実には、これまで中国の内政にさほど関心を持ってこなかった読者であっても、慄然とするであろう。

     経済成長が社会を安定させ、党による指導を正当化するという考え方はトウ小平以来の路線だ。しかし、中国には既得権益と党幹部の腐敗があり、格差縮小に向けた政治が働いていない。ということは、富裕なエリート階級としての共産党幹部の支配を正当化しえなくなってしまう。

     そこで著者が指摘するのが、江沢民ジアンズォーミンによる反日教育や、対日関係の悪化である。著者は、江沢民の対日強硬姿勢は、かなり個人的な動機あるいは考えに基づくものであったと指摘する。「抗日戦争」の歴史を改ざんして共産党支配の正当化を行い、あるいは江個人の政治闘争に反日を利用した。それが江の出自(対日協力者の実父を持つといううわさ)を覆い隠すためかもしれない、とすら著者が述べているのは衝撃だ。

     中国政治におけるトップ争いは、制度化されていない権力闘争である。現在、習近平シージンピンが行う腐敗撲滅キャンペーンも、江沢民派潰しの意図抜きには語れない。習体制下で、日中関係の改善の兆しはみられないわけではない。しかし、江沢民派が存在し続ける以上、反日をあおる人々は居続けるだろう。そして政権はその圧力をナショナリズム上無視できない。中国の政治体制という巨大な問題と、我々は引き続き、向き合い続けなければならないのである。

     ◇こくぶん・りょうせい=1953年生まれ。慶応大教授を経て防衛大校長。著書に『現代中国の政治と官僚制』など。

     岩波現代全書 2400円

    2017年06月19日 05時23分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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