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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)

    『日米の衝突』 ウォルター・ラフィーバー著

    競争意識と不信感と

     日米が衝突(クラッシュ)する。米国の外交史家、ラフィーバーの手による原著が出版されたのは1997年。船橋洋一著『同盟漂流』が出されたのと同じ年である。冷戦終結後しばらく、同盟の意義は低下し、沖縄少女暴行事件などをきっかけに摩擦が意識されるようになった。クリントン大統領が日本の頭越しに訪中し、ジャパン・パッシングと言われた時期。同盟の再定義まで、両国の関係は試練に直面した。

     ラフィーバーは、この本で、大胆にも日米関係通史を描き切ろうと試み、1853年のペリー来航以降、1990年代後半に至るまで、異質な両国の関係は衝突と摩擦に満ちていたと結論付けている。本書に通底するのは日本に対する競争意識と抜き去りがたい不信感であり、アメリカからみて異質な資本主義、異質な民主主義と接することへの困難さである。

     ()(くい)は打たれ、和を貴ぶ社会。こじ開けようとするアメリカと、古い体質を守りながら適応しようとする日本。この本が描くのは、紋切り型の、しかし教養あるアメリカ人が抱く一般的な日本イメージと重なる「日本」である。乱暴さは感じられるものの、その裏にうかがえるのは、色濃い同時代の感情だ。貿易摩擦やプラザ合意をめぐるさや当て。冷戦終結後のつかのユーフォリア(多幸感)。そして、情報産業が花開き自信を取り戻すまでの、暗いアメリカ社会。

     アメリカにとって、日本が腹心の友たりえたことはない。日本がどれほど経済競争で手ごわい相手であるかによって、日本観が左右されるというのは、正直その通りだろう。

     本書のように徹底して突き放した日本観というものを、日本の読者は読んでみるべきかもしれない。日頃の日米関係を取り仕切る日本専門家が有するようなウェットな人間関係や、専門家集団としての利益をもたない、アメリカのエリート社会がもつリアリズムがそこにある。土田宏監訳、生田目学文なまためのりふみ訳。

     ◇Walter LaFeber=1933年生まれ。コーネル大マディソン校歴史学部名誉教授。著書に『アメリカの時代』。

     彩流社 5500円

    2017年07月17日 05時24分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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