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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・伊藤亜紗(美学者・東京工業大准教授)

    『石、転がっといたらええやん。』 岸田繁著

     ロックバンド「くるり」のボーカル兼ギタリスト、岸田繁が音楽誌に連載していたエッセイ11年分の単行本化。夢のような幼少期の記憶、便器の形状に対する異様なまでのこだわり、日々の食事や散歩、滅亡間近の東京を描いた壮大なSF、自作自演インタビュー……とにかく話の内容もテンションもあちこちに飛ぶ!飛ぶのだが決して散漫ではない。生々しいのだ。目が泳いでいるような、それでいて虎視眈々たんたんと狙っているような。

     著者は、家やスタジオにこもっていては曲が作れないそうだ。散歩しながら、あるいは電車で移動中、体ごと動きながらメロディを探し、曲が浮かぶのを待つ。もちろん、それは狙って思い浮かぶようなものではない。おおまかな「網の張り方」はあるとしても、予想を超えた何かを呼び込むことができなければ、ものを作る面白さに出会ったことにはならない。ページを繰るごとにハラハラさせられる生々しさは、「さっきまでの自分」からずれ続けるさまよいのプロセスである。そこには、コンサートで聴くくるりの音楽とはまた別種のライブ感がある。

     ロッキング・オン 1350円

    2017年07月17日 05時22分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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