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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・奈良岡聰智(政治史学者・京都大教授)

    『台湾北部タイヤル族から見た近現代史』  菊池一隆著

    日本統治の実態を分析

     台湾には、中国大陸にルーツを持つ住民以外に、マレー・ポリネシア系の先住民が居住している。言語や風俗などの相違から、一六種族に分類されているが、日本統治下ではその多くが「高砂族」と称されていた。現在台湾の総人口の二パーセント余を占めるに過ぎないが、伝統的な文化や風習を保持する者が多く、独自の存在感を持っている。

     本書は、先住民の中で最も勇猛とされたタイヤル族の近現代史をたどったものである。彼らは、かつて首狩り(出草)など独自の風習を持っていたことから、民族学や人類学の研究対象となってきた。しかし、文字を持たないため、その歴史には不明な点も多かった。著者は、日本統治時代の新聞を渉猟するとともに、タイヤル族の人々にインタビューを重ね、史料の空白を埋めている。

     日本は、一八九五年に台湾を獲得したが、先住民の抵抗が強く、統治が安定するには二〇年近くを要した。本書の前半では、日本の台湾総督府が、いかにタイヤル族の抵抗を鎮圧したのかを分析している。高圧電流を流す鉄条網で彼らの生活圏を取り囲む、狩猟から農耕への転換を促すなど、苛烈かつ巧妙な統治の実態が明らかにされている。

     「帰順」後のタイヤル族は「日本人」意識を強め、太平洋戦争期にはむしろ積極的に国策に協力した。先住民から成る部隊「高砂義勇隊」に志願する者も多かった。勇敢で身体能力の高い彼らは、フィリピンやニューギニアの戦場で活躍したが、その分犠牲も大きく、隊員約四千名のうち六~七割が戦死したとも言われている。この実態を分析した第四章が、本書の白眉である。戦後、彼らの一部は、今度は国民政府軍の一員として国共内戦で戦った。他方で、国民党政権と敵対し、殺害されるタイヤル族の指導者もいたという。

     台湾先住民の苦難は、日本の近現代史と密接な関係にあった。多くの日本人に、ぜひこの歴史を知って欲しいと思う。

     ◇きくち・かずたか=1949年宮城県生まれ。愛知学院大教授。著書に『東アジア歴史教科書問題の構図』など。

     集広舎 2750円

    2017年07月17日 05時23分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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