文字サイズ
    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・伊藤亜紗(美学者・東京工業大准教授)

    『変貌するミュージアムコミュニケーション』 光岡寿郎著

    娯楽と教育で揺れ動く

     ミュージアムのメディアコンプレックス化が進んでいる。ルーブル美術館では、任天堂のゲーム機を公式ガイドに採用。画面内で絵画を拡大したり、彫刻を回転させたりして鑑賞する人がいる。ニューヨーク近代美術館は、アプリが充実。マニアックなほど詳しい解説を聞くことができる。日本の美術館や博物館でも、関連映像を視聴できるブースが用意されたり、来場者が感想を書き込める端末が置かれたりすることが増えている。いまやミュージアムの展示品は、「一対一でじっくり向き合う」ものではなくなり、情報端末や映像などさまざまなメディアの網目のなかに組み込まれ、さらにはスマホで撮影されミュージアムの外へと拡散される対象になっている。

     ミュージアムは本来、あらかじめ定められた意味をありがたく受け取るだけの場所ではない。むしろ来場者それぞれが、実際にその中を歩き回りながら、見たり、読んだり、聞いたり、時には撮ったりしながら、自在に意味を作り出していくことのできる場である。本書は、そんな場としてのミュージアムの歴史と可能性を、コミュニケーションをキーワードに詳細に分析した労作である。中心的に論じられるのは、20世紀以降の北米と英国のミュージアムだ。

     ミュージアムの歴史は、娯楽と教育のあいだで揺れ動いている。1930~40年代の北米では関連のラジオ番組が量産され、館が専用の脚本家を雇用していたほどだった。マスメディアとの蜜月関係はテレビ時代になっても続いたが、70年代になるとテーマパークなど他の娯楽施設と差別化するため、教育的機能が強調された。他方、同時期の英国では財政悪化で公的支援が減少、娯楽施設としてかじを切っていく。ミュージアムとは「日常から切り離された別世界」などでは全くなく、そのときどきの社会状況やメディア環境の波間を進む船のようなものなのである。

     ◇みつおか・としろう=1978年生まれ。東京経済大准教授。専攻はメディア研究、ミュージアム研究など。

     せりか書房 4000円

    2017年07月24日 05時25分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大手町モールのおすすめ
    帆布鞄
    リンク