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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・伊藤亜紗(美学者・東京工業大准教授)

    『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』 川添愛著 花松あゆみ・絵

    AI通し言語や人探る

     美しい挿画に寓話ぐうわのようなタイトル、しかし中身はガチの言語学そして人工知能論である。怠け者のイタチくんたちが何でもしてくれる万能ロボットを求めて悪戦苦闘する物語と、言語の構造や機械学習についての丁寧な解説が交互に組み合わさった珍しい形式。どちらのパートでも著者のユーモアセンスがえている(カメレオンが作った健康相談ロボットは「青緑赤ひげ先生」、フクロウがかぶるのはナイトキャップならぬ「デイキャップ」)。かっちりとした学術書の形式ではこぼれ落ちてしまう、言葉と人間の自然な距離感を生け捕りにしていてみずみずしい。

     ところでなぜイタチなの? その答えも最終章にちゃんと用意してある。言葉が聞き取れるロボット、おしゃべりができるロボット、画像が認識できるロボット……イタチたちは次々に新型ロボットの開発を進める。けれど、やってもやっても「言葉が分かる」と言うには何かが足りない。その課題を解決するためにまた新しいロボットを作るのだけど、結局また新しい課題が見えるだけ。そう、「イタチごっこ」なのである。つまり、可愛かわいらしい見た目とは裏腹に、本書の結末はちょっと残酷なのだ。少なくとも現在主流の機械学習の方法では、言葉を理解する機械を実現することはほぼ不可能。イタチの夢だけでなく人間の幻想もまた同時に打ち砕かれるのである。

     言語は、単に知能があれば使いこなせるというものではない。それは、人間特有の倫理的・社会的な能力とも深く連動している。機械は、ある発言の意味を理解することはできても、発話者の意図まで理解するのは難しい。意図を理解するためには、「他者の立場に立つ」という能力が必要だからだ。人工知能を通して明らかになる、言葉や人間について深い示唆。中高校生のみならず、大人にもおすすめしたい一冊である。

     ◇かわぞえ・あい=1973年長崎県生まれ。言語学者。国立情報学研究所特任准教授などを務めた。

     朝日出版社 1700円

    2017年08月07日 05時26分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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