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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・朝井リョウ(作家)

    『5まで数える』 松崎有理著

     動物実験禁止国際法が成立し、生体実験を自身で行う職業“実験医”が生まれた世界。飛行機事故で砂漠に放り出された少年犯罪者たちのサバイバル。疑似科学によるインチキ商売を退治する組織の栄枯盛衰――理学部出身という異色の経歴を持つ著者が創る物語は、どれも独特の手触りだ。壮絶なバッドエンドに胸が打ち砕かれたと思いきや心温まる読後感に包まれたりと、SFとホラーの融合という縛りがありながら物語の表情はくるくると変わる。

     5まで数えられないと天国へ行けない。そんな言い伝えを信じる失算症の少年と教会の幽霊の交流を描く表題作は、少年少女にぜひ読んでもらいたい一作だ。数を数えられなくても数学はできる。にわかには信じがたい論が美しく解明される展開は、何かに挑むための一歩目で躊躇ちゅうちょしている人の背中を優しく押してくれるに違いない。

     印象的なのは、各章の設定は奇抜なようでいて、どこか私たちの生きる世界を映してもいるところだ。世にも奇妙な世界と現代社会を行き来する不思議な読書体験は、きっと特別な記憶となるだろう。

     筑摩書房 1600円

    2017年08月28日 05時21分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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