『ほんとうの憲法 戦後日本憲法学批判』 篠田英朗著
学界の権力構造に挑む
反知性主義が
「
著者はそうした高圧的な態度に違和感を覚えたようだ。冒頭で長谷部氏の発言を引用し、憲法学のコミュニティーにおける権力構造を指摘し、その世界観に戦いを挑んでいる。国際法の生成過程をガイドに、憲法を事実上起草したアメリカ人らの意図を読み解く。極めて合理的な説明だ。おそらく少なくない政治学者が感じてきたであろう、違和感がすっきりと表現されている。
ただ、私が著者と見解を異にするのは、長谷部氏はじめ「法律家共同体」に軸足を置いてその解釈を守り切ろうとした人々の立場についてだ。実は、著者が批判する東大法学部の権威の系譜は、2015年までは極めて柔軟な憲法解釈を、政府寄りにしてきた。そのことへの説明が本書ではなされていない。本当のところ、あれほど強い反対に長谷部氏らが転じたのは、柔軟な解釈を提供してきた彼らが引いた「一線」を政権が超えたことへの嫌悪であったのではないかと私は思っている。
問いは、なぜ彼らがそこに大きな一線を
◇しのだ・ひであき=1968年生まれ。東京外国語大教授(国際関係論)。著書に『集団的自衛権の思想史』など。
ちくま新書 860円