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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・旦敬介(作家・翻訳家・明治大教授)

    『サージェント・ペパー50年』 マイク・マッキナニー、ビル・ディメイン、ジリアン・G・ガー著

    ビートルズを立体的に

     ビートルズのこのアルバムが一九六七年六月に発表されて今年で五十年だというので、工夫を凝らしたCDやLPの豪華セットが何種類も発売されているが、この本はレコード会社の関与なしに作られた本物のファン・ブックだ。この一作に話を限定して書かれているので、集中の途切れないよくまとまった一冊になった。

     中身は「ムード」「ルック」「サウンド」「レガシー」という四部構成になっていて、僕がとくに興味を引かれたのは「ムード」の部分だ。サイケデリックの意匠などを利用して同時代から活躍してきたデザイナーが、当時のロンドンの最先端の芸術文化のありようを詳細に再現してみせたもので、その時代の中でのビートルズの位置がちょうどいい立体感をもって理解できた。つまり、われわれはビートルズを神格化して、彼らが最先端を行っていたと思いがちだが、実は彼らは女の子たちをキャーキャー言わせるポップ・グループ出身だったので、同時代のイカした若者たちの中ではむしろ遅れていた側で、必死に新しい動きに追いつこうとしてこのアルバムに至った。「スウィンギング・ロンドン」では本当にさまざまなぶっ飛んだ試みが日常的に行われていたことがよくわかる。

     「ルック」は有名なこのアルバム・カバーの制作秘話。実際に制作を担当したデザイナーに取材して書かれている。「サウンド」の部分は、名高い実験的録音方法などの「事実」の解説にとどまらず、書き手の判断も入っていて、新鮮な面白さがある。たとえば、アルバム内でポール・マッカートニーのボーカルの一番いい部分はどこなのか、という一節を読んだときには、その部分の音源が突然、あざやかに耳の中に思い浮かんできて、鳥肌が立つような強烈な印象を受けた。

     見たことのない写真が多く、とくに、ビートルズ以外の周辺の人物や世相を写す写真が興味深い。野間けい子訳。

    Mike McInnerney=デザイナー◇Bill DeMain=ライター兼音楽家◇Gillian G.Gaar=音楽ライター。

     河出書房新社 3200円

    2017年09月11日 05時26分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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