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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    朝井リョウ(作家)

    『影裏』 沼田真佑著

     主人公は出向先の岩手で、共通の趣味を持つ男、日浅に出会う。自然と距離が縮まるが、日浅が転職した頃から関係性が変わり始める。そして震災後のある日、主人公は日浅が行方不明であることを知る。情報を得るため彼の実家を訪ねるが、父親から、日浅を捜す意思はないことと、その理由を明かされる。

     主人公の元恋人が同性であるためLGBT文学、あるいは震災文学とも呼ばれる今作だが、個人的には、その二点は物語を構成する要素の一つであり、それらを通過することで世界を見つめる視点のズレが明らかになる部分が主題だと受け取った。常識から外れた行動をする独居老人を迷惑と思う前に、そこにある孤独を嗅ぎ取る主人公。巨大なものの崩壊に陶酔する傾向を持ち合わせた状態で、津波に出会った日浅。過去に目撃した息子のおぞましい姿を出発点に、最終的に絶縁を選択した父親。三者に搭載された思想の起点、その違いによる見える世界の差異。それを細かな描写の蓄積で書き表している今作は、現代を生きる上で必要な力である想像力の種に成り得る。

     文芸春秋 1000円

    2017年10月02日 05時21分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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