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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・青山七恵(作家)

    『その日の後刻に』 グレイス・ペイリー著

     戦後アメリカ文学シーンを生き、長く愛されてきた寡作な作家の短編小説集。静謐せいひつな物語の中に、様々な人の声がこえてくる。しっかり身を入れて読んでいないと、誰が何について話しているのかすぐにわからなくなってしまう。それでも、そこに間断なく流れる見知らぬ人々の暮らしの声を、ただ聴いている、という状態にあることが不思議と心地良い。文字でできた何かであるのに、子どもの頃、遠出のドライブに出かけたときに、後部座席でウトウトしながらなんとはなしに聴いていた親たちの話、ラジオから流れる音楽、ああいったものに近いような気がする。巻末に収録されたインタビューによると、移民の両親を持つ著者は複数の言語が飛び交う家庭や地元ブロンクスの路上でたくさんの話を聞いて育った。「すべてのストーリー・テラーは、良い聞き手でもある」と言う彼女は、生きた「ヴォイス」というものをとても大切にした作家なのだ。

     天気の良い秋の日に、時々お茶をれたり、散歩をしたりなどして、長い時間をかけてゆっくり、じっくり読みたい一冊。村上春樹訳。(文芸春秋、1850円)

    2017年10月09日 05時21分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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