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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・柳川範之(経済学者・東京大教授)

    『デザインの仕事』 寄藤文平著

    広告・装丁名人の頭の中

     人が頭の中でどんなことを考えているのかを伝えるのは、実は容易なことではない。本人にも良く分からない位、混沌こんとんとしている部分も多いし、逆にきちんと整理して説明されると、悩んでいたり、もやもやしている部分が伝わらなくなったりしてしまう。

     その辺りのバランスが、この本は絶妙で、著者の頭の中を知りたいと思っている、この分野を志す人や関心をもっている人にとって、魅力的なメッセージが多く詰まっている。

     そもそもデザインをするとはどういうことなのか。門外漢にはなかなか分かりにくいが、様々な具体例を通じて、著者が従事しているデザインの仕事がどんなものかが、良く分かってくる構成になっている。

     広告におけるデザインは、ビジュアルをシンプルにして、その箱にストーリーを詰めていく、そういう方向に変化してきたが、その一方でストーリーの世界がどんどん広がって行き過ぎると、そこに限界もみえてくるという記述は、説得的だ。

     また、デザインというのは、部分と全体をつなぐ技術で、デザインをすることでそういう「ものの見方」を身に着けることができる。デザインは「秩序を考える学問」だというのは、評者にとってなるほどと思わされる記述だった。

     本好きの読者にとっては、後半部の書籍装丁のデザインに関する説明も、興味深いだろう。装丁について、これだけいろいろなことが考えられていたのかと気づかされる。著者によれば、装丁することは、「批評」をすること。長所も短所も突き放して捉えられていたほうが良く、引き込まれた本ほど装丁が逆に難しいのだという。

     依頼された本に関する、自分の感想を言語化して伝えることの重要性や難しさも語られていて、デザインをするというのは、単に何かをビジュアル化させることではないと再認識させられる。聞き書き・木村俊介。

     ◇よりふじ・ぶんぺい=1973年生まれ。グラフィックデザイナー。著書に『死にカタログ』『元素生活』など。

     講談社 1300円

    2017年10月09日 05時24分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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