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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・宮部みゆき(作家)

    『湖の男』 アーナルデュル・インドリダソン著

     アイスランドの首都レイキャビク警察の犯罪捜査官・エーレンデュル。寡黙で風采があがらず、良き部下に恵まれているのに気難しく、ヘビースモーカーで、趣味と言えば失踪者や遭難者の記録を読むこと。その捜査活動を外連味けれんみ抜きの人情味ありで描き、今世界中で愛読されているシリーズの本書は第四弾だ。

     人口三十万人ほど、北海道より少し大きいくらいの最果てのこおれる国アイスランドでは、国民の誰もが遠く緩やかにつながった親戚同士みたいなもの。殺人事件はシンプルで突発的・偶発的で、複雑な動機も派手な展開もない。「それがアイスランドの犯罪なのだ」とつぶやくエーレンデュルが対峙たいじする今回の謎は、干上がった湖底で発見された一体の古い白骨死体だ。それにはなぜかソ連製の盗聴器が結びつけられていた。

     このシリーズはいつも何らかの形でアイスランドの現代史に触れている。今回は東西冷戦の時代に翻弄ほんろうされた若者たちの悲劇を掘り起こしてゆく過程で、孤独なエーレンデュルの私生活にも小さな変化が訪れるところも読みどころだ。柳沢由実子訳。

     東京創元社 2100円

    2017年11月13日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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