文字サイズ
    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・出口治明(ライフネット生命創業者)

    『オスマン帝国の崩壊』 ユージン・ローガン著

     現在の中東の混迷の種子が、第一次世界大戦中に英国によってかれたことはよく知られた事実である。アラブ人の独立を約束したフサイン=マクマホン書簡、フランスにシリアを明け渡したサイクス=ピコ協定、ユダヤ人国家の建設に賛同したバルフォア宣言、この3つは相互に矛盾する内容を抱えており共存させるためにはおそらくビスマルク級の卓越した外交手腕が必要であった。

     では、なぜ、英国はこのような空手形を切ったのだろうか。その背景にはトルコ軍の頑張りがあったのである。第一次世界大戦は西部戦線での塹壕ざんごう戦が有名だが、実は中東でも激しい戦いが行われた。ガリポリ半島(ダーダネルス海峡)やクート(イラク)の戦いではオスマン軍が勝利を収め、連合軍が敗退の憂き目にあった。そこで焦った英国が策をろうしたのである。本書は、泰斗の手によるオスマン帝国側から見た第一次世界大戦史の決定版である。トルコ史の暗部といわれるアルメニア人の虐殺や戦後処理の過程にも十分な紙数が割かれており、中東の近現代史を学ぶには最適の1冊だ。白須英子訳。

     白水社 4500円

    2017年11月13日 05時21分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大手町モールのおすすめ
    帆布鞄
    リンク