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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・奈良岡聰智(政治史学者・京都大教授)

    『天皇のダイニングホール』 山崎鯛介、メアリー・レッドファーン、今泉宜子著

    明治の美伝える記念館

     明治神宮外苑に位置する明治記念館。人気の高い結婚式場であるが、その歴史となると、あまり知られていないのではないだろうか。同館本館は、赤坂仮皇居の「御会食所」が移築されたもので、明治天皇が使用した宮殿建築で唯一現存する建物である。かつてここでは、明治憲法の草案が審議された他、天皇や皇后による外賓の接待やさまざまな儀式も行われた。まさに「明治の息吹」を感じることができる建物が、明治記念館なのである。

     同館本館は、一見すると純和風の建築のように見えるが、実際には至るところに洋風の要素がちりばめられている。設計者は、宮内省内匠寮の技師だった木子清敬きこきよよし。彼は、京都御所を想起させる「復古」的な外観にしつつも、内部には立式の儀礼に対応した床仕上げや書院造風のインテリアを用い、「和洋折衷」の空間を作り上げた。また室内では、伝統的な工芸技術によって「和風」装飾を施した「洋風」家具が使用された。本書は、「明治」という時代を象徴するこうしたユニークな意匠について考察している。

     宮中儀式で用いられた洋食器についても、分析されている。明治初期に皇室に西洋式の料理やマナーを導入することは、大きなチャレンジであり、政府はそのための投資を惜しまなかった。宮中で使用する洋食器は、国産、輸入を問わず、宮内省による注文品だったという。ぜいを凝らした洋食器の一部は、今日でも国賓を招く饗宴きょうえんの場で使われているというから驚きだ。

     宮中儀式では、女性が大きな役割を果たした。著者は、西洋風の儀式が整えられていく中で、皇后の役割が伝統的なあり方から大きく変化していったことを指摘している。皇后を支えた女性通訳たち、明治初期に宮中の料理人として初めて海外留学した吉村晴雄など、多くの人びとが宮中儀式を支えていたことも紹介されている。

     「明治」という時代、皇室の歴史、いずれを知る上でも興味深いエピソードが満載である。

     ◇やまざき・たいすけ=東工大准教授 ◇Mary Redfern=学芸員 ◇いまいずみ・よしこ=明治神宮研究員。

     思文閣出版 2500円

    2017年11月13日 05時24分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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