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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

    『アンチクリストの誕生』 レオ・ペルッツ著

     この十余年、翻訳が相次いで、幻想文学好きに静かな熱狂を巻き起こしている話題の作家レオ・ペルッツ、文庫初お目見えである。一八八二年、チェコに生まれ、オーストリアで活躍、ナチス・ドイツの手を逃れてパレスチナへ、そんなユダヤ系作家だが、作品はといえば豪華絢爛けんらんにして薄明と薄暮の気配漂う歴史幻想伝奇小説や迷宮的探偵小説、どれもがペルッツならではのタッチに目がくらむ。

     一九三〇年刊の本書は、ロシア革命内乱下の暗号解読専門家の、捕虜収容所で同じ日の新聞を読み続ける兵士の、反キリストの息子を持った父親の、月を恐怖する貴族の運命が語られ、小銃で自ら命を絶った曹長の弾丸はとなりのへやへそのまたとなりの室へと飛び進み、降霊会や決闘は思いもよらぬ結末へ、そんな八編が収められている。

     奇想天外不羈ふき奔放、苦くて甘いユーモアの果てに人間の運命の不思議と悲哀が横たわる。まずはその世界を本書でお試しいただいて、ハマったあなたは既訳を次々と読み進めたくなるはずだ。新たにペルッツ世界に出会うあなたがうらやましい。垂野創一郎訳。

     ちくま文庫、900円

    2017年11月20日 05時21分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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