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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・長島有里枝(写真家)

    『忘れる女、忘れられる女』 酒井順子著

    女性の目で世相を読む

     二〇一六年七月から約一年にわたって「週刊現代」に連載されたコラムを、一冊にまとめた本書。そのときどきで紙面を騒がせた政治ニュースや社会現象、スキャンダルなどをその当事者である女性たちの分析から読み解いていく、痛快エッセイ集だ。

     一ファンであるわたしが愛してやまないのは、知的で美しい言葉遣いが織りなす緻密ちみつな文章と、ときにブラックな視点から世相を見つめた本音トーク。私感を押し殺しているわけではないのに淡々とした印象を与える語り口は、まるでボサノヴァを聞いているかのような心地よさだ。にもかかわらず、読後はまるでごく親しい女友達と日々のあれこれについておしゃべりをしたかのような爽快感がある。

     それでも、これまでに読んだほかの著作に比べると、本書には前面に押し出されたフェミニズム的視点を感じる。たとえば、「子ナシ独身女性知事」で著者は、小池百合子都知事が女性であるだけでなく、独身で子供を持たない点でも都知事として初であろうという。男性であれば、キャリアや目標のための努力に日々邁進まいしんしてさえいればおのずとできるものである結婚と子供が、女性にとっては否、という大問題。これを掘り下げる著者の語りからは、明白なフェミニズム思想が感じられるのにどこまでも読みやすい。また、「ゴルフと男社会」では、競技そのものではなく、バブル期の社交場における女の居場所のなさに疲れてゴルフを辞めた、著者の経験が書かれている。ゴルフをしたことがなくても、伝統的に女のものとされてこなかった何かに着手する女性の多くは、同じような苦境に必ず立たされる。日々、なんとなく感じている生きづらさを、著者は軽さと機知とユーモアに富んだやり方で言葉に置き換え、読み手であるわたしたちの溜飲りゅういんを大いに下げてくれる。

     ところどころニヤニヤしてしまうので、電車内ではマスク着用で読みたい。

     ◇さかい・じゅんこ=1966年東京生まれ。『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞。

     講談社 1300円

    2017年11月27日 05時28分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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