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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・伊藤亜紗(美学者・東京工業大准教授)

    『新しい分かり方』 佐藤雅彦著

    仕掛けで常識を覆す

     「ピタゴラスイッチ」などで知られる著者による、構想10年の新作。あの癖になる明快さを、混じりっけなしの純粋形で堪能できる。

     前半は紙面上で体験できる作品集。さながら知的な仕掛け絵本といったところだ。ただしこの絵本、仕掛けは無邪気な読者をつかまえるためにある。「ああ、そういうことね」と分かったつもりでページを繰ると、「ねえ、その分かり方は変じゃない?」と呼び止められる。まるで、自分の思考回路そのものが、まな板の上に乗せられて、てきぱきと料理されていくような感覚。「読書は受動的」という常識がひっくり返される、本に巻き込まれる経験だ。

     例えば、犬が映ったテレビの写真と、テレビから遠ざかる犬の写真。二枚並べると、私たちはつい「犬がテレビから出てきた」と理解してしまう。しかしよくよく考えればおかしなことだ。犬がテレビから出てくるはずないのはもちろんだが、そもそも二枚は全く関係のない写真である。にもかかわらず、私たちの想像力は頼まれてもいないのにそれらをつなぎあわせ、そこに「犬の脱出」というストーリーを見る。私たちの「分かる」は、必ずしも論理的とは限らない。「人間とはこんな分かり方をしてしまうのか」という驚きとともに、「分かるの分からなさ」を手にしてしまう。

     後半は、作品の解説も兼ねた随筆集。中でも異彩を放っているのが最後の一編だ。語られるのは、著者が学生のころに受講した人体解剖実習の話。シンプルなデザインが特徴の著者の口から生々しい解剖の話が語られるのはそれだけで意外だが、担当した遺体の脛骨けいこつに、戦地での応急処置か何と金属棒が継がれていたのだと言う。その衝撃が40年っても消えていない。仕掛けの天才は、驚きを味わう天才でもあるのだ。

     ◇さとう・まさひこ=1954年静岡県生まれ。東京芸大教授。CM、テレビ番組、ゲームソフトなど多彩な活動で知られる。著書に『差分』『考えの整頓』など。

     中央公論新社 1900円

    2017年11月27日 05時27分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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