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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・稲泉連(ノンフィクションライター)

    『トラクターの世界史』 藤原辰史著

     土を掘り起こし、力強く耕地を駆ける鋼鉄の農機――。「二〇世紀」という言葉を聞いて、この「トラクター」を真っ先に思い浮かべる人がどれほどいるだろうか。

     だが、著者は言う。〈トラクターがいない二〇世紀の歴史は、画竜点睛がりょうてんせいを欠くと言わざるをえない〉と。

     本書は農業史を専攻する研究者が、かつて「鉄の馬」とも呼ばれた農機の近現代史を描いた労作だ。

     アメリカでは近代文明の象徴となり、社会主義国では農業の集団化の夢を体現。また、ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄ぶどう』などで憎しみの対象として描写されたかと思えば、戦車製造の技術にも転用された。

     現在の「農業のスマート化」に至るトラクターの技術的な進歩はもちろん、国家や政治、社会、文化に与えた影響を、その功罪も含めて縦横無尽に描いていく裾野の広さに圧倒される。

     なるほど、冒頭の言葉通り、まさしく時代の動くところにトラクターあり。現代史のあり様を少し違った角度から見つめる上でも、意義の深い研究成果だと感じた。(中公新書、860円)

    2017年12月04日 05時22分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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