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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・伊藤亜紗(美学者・東京工業大准教授)

    『つらいと言えない人がマインドフルネスとスキーマ療法をやってみた。』 伊藤絵美著

    「自分の感情」を感じる

     グーグルやインテル、はたまたイギリス国会にまで取り入れられて近年話題のマインドフルネス。関連書もたくさん出版されるなか、本書が出色なのは、「医師のヨウスケさん」と「心理士のワカバさん」という、「自分を助けられない人助けのプロ」を主人公にしているところだ。ヨウスケさんは、人を見下すオレ様タイプ。逆にワカバさんは、いい人すぎて自分の感情より他人を優先してしまう。周囲の評価は真逆な二人だが、自分が感じているつらさに向き合えないという点では同じだ。

     「つらさに向き合えない」とは、自分が感じているはずの感情を感じられないということ。奇妙なようだが、案外思い当たる人は多いのではないか。評者もときどきそんな学生に出会うことがある。例えば、ずっと敷かれたレールの上を走ってきたために、大学に入ってもまだレールを探してしまうタイプ。美術の授業で絵を見せても、自分が感じたことを率直に言葉にできず、スマホで検索してまで「正しい解釈」を探す癖から抜け出せない。

     ではどうやったら自分の感情を感じられるようになるのか? 著者の言うマインドフルネスの基本原則は「ふーん、そうなんだ」である。自分の内に起こる反応に対して、良い・悪い等でジャッジする視点を手放す。そしてただ味わい、観察する。「ここで怒っちゃマズい」ではなく「ふーん、私ってこういうときに怒りたくなっちゃうんだ」。レーズンやバーチャル味噌みそ汁を使った楽しい練習法も紹介されている。

     本書ではさらに、より深いレベルの認知にアプローチするスキーマ療法にも踏み込んでいる。二人の対照的な主人公が、臨床心理士である著者との関わりのなかで、どう変化していくのか。分厚いよろいを一枚ずつ剥いでいくそのプロセスは臨場感に満ちていて、思わず手に汗握ってしまう。解説書なのにドキドキハラハラ、実況中継を聴いているようで一気読み必至。

     ◇いとう・えみ=臨床心理士、精神保健福祉士。認知行動療法を専門とするカウンセリング機関を運営。

     医学書院 1800円

    2017年12月18日 05時24分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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