文字サイズ
    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

    『新哲学対話』 飯田隆著

    不変の問いと向き合う

     哲学の現場で、私たちの生きる根源にかかわる言葉は、どう語られるのでしょう。この本は日本語の対話でその見本を示します。台所でお母さんがしゃべる言葉も、職場や学校で友人とかわす言葉も、哲学の問いをきりだします。でも、それに向きあい考えていく対話には、良いモデルがいります。

     ソクラテスが現代によみがえったら、きっと人工知能(AI)の問題にも興味をもって討論するでしょう。使っている言葉がややちがうにしても、論じる問題はむかしから変っていません。プラトンにならった四つの対話へんは、そうして現代哲学の問題をあつかいます。ソクラテスやテアイテトスらお馴染なじみのギリシア人たちは、とても上手に議論していきます。

     「よい」や「おいしい」をめぐってワイワイとおしゃべりする飲み会は、いろいろな意見がぶつかりあう、楽しい言論の場になります。現代の哲学者がつかうような、きわどくて単純すぎる例よりも、ずっと豊かな言葉の世界が、食卓には広がっています。ワインがおいしいというのはどういうこと? こんな話題で、ソクラテスや仲間のどの意見が正しいと思うかを、飲みながら話しあってみてはいかがでしょうか。

     私たちが言葉をかわすのはなぜでしょう。問わざるをえないのが、人生でありこの世界です。古代ギリシアの哲学者たちも、現代の日本に生きる私たちもおなじです。哲学の対話は夢のようにつづき、とぎれ、くりかえされます。それは、ソクラテスやプラトンの言葉をいま新たに経験すること、この時代でおなじ問いを問うことなのです。

     哲学はむずかしいことをむずかしく語るものではありません。とてもかんたんなのにむずかしい、分かっているはずなのに分からない。そんな世界と人生への問いにしんぼうづよく向きあい、楽しく対話していくことです。この本はそんなソクラテスの精神を伝えてくれます。

     ◇いいだ・たかし=1948年生まれ。日本大教授。日本哲学会会長などを歴任。著書に『言語哲学大全』。

     筑摩書房 2300円

    2017年12月25日 05時24分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大手町モールのおすすめ
    帆布鞄
    リンク