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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・稲泉連(ノンフィクションライター)

    『テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅』 児玉博著

    異端経営者の盛衰史

     米原子力事業の買収に端を発する巨額損失に、相次ぐ不正会計の発覚が重なった東芝の経営危機。この名門企業の落日をテーマとしたノンフィクションの中で、本書は先日に亡くなった四代前の社長・西田厚聰あつとし氏の人物像に、本人の肉声を交えて迫った一冊だ。

     米ウェスチングハウスを6千億円以上で買収した西田氏は、東芝を現在の苦境に追いやった「戦犯」と呼ばれた。現役時代の彼を取材してきた著者は、一度は名経営者と評されたその異端の歩みに、東芝の現在に至る盛衰史を重ね合わせていく。

     東京大学の大学院で西洋政治思想史を学び、研究室で出会ったイラン人留学生の恋人を追って革命前のテヘランへ。イラン政府と東芝の合弁会社からキャリアをスタートさせた後は、すさまじいほどのバイタリティで頭角を現した。そしてパソコン事業の建て直しなどで実績を上げ社長になると、「選択と集中」を掲げて東芝の収益を拡大させた。

     だが、著者がそのつかの間の「光」によって強調するのは、以後の事業の暗転の深刻さや人事抗争の醜さだ。一人の経営者はこの名門企業に何をもたらし、どこで道を誤ったのか。「栄光」の描写がまばゆければ眩いほど、映し出される“東芝崩壊”の影が色濃くなるのである。

     今年の10月、著者は本人の自宅で3時間半に及ぶインタビューを行っている。結果的にそれは、生前の西田氏が対面での取材に応じた最後の機会だったことになる。がんの手術による入院生活から戻ったばかりの彼は、批判に対する反論を饒舌じょうぜつに語っている。だが、そこで著者が目にしたのは、自ら後継に指名した元社長をののしり、自身の責任には決して触れようとしない姿でもあった。

     インタビューの終局、「あれほどの経営者だった人がなぜ――」というやるせなさを吐露する著者の心情が切ない。そうして胸におりのように残されたのは、どうすることもできない割り切れない思いであった。

     ◇こだま・ひろし=1959年生まれ。フリーランスで取材、執筆を行う。著書に『堤清二 罪と業 最後の「告白」』。

     小学館 1500円

    2017年12月25日 05時23分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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