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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・塚谷裕一(植物学者・東京大教授)

    『幻の惑星 ヴァルカン』 トマス・レヴェンソン著

     一九一六年頃まで、太陽系にはヴァルカンという惑星があった。水星より太陽に近い側にあって水星の軌道をゆがめ、ニュートン力学から計算される位置から水星をずらしているとされた天体だ。

     しかし今はない。

     ニュートン力学をアインシュタインが相対性理論で塗り替えた結果、その存在は不要となったためである。太陽の巨大な重力によって時空がゆがめられているため、ヴァルカンが存在せずとも、水星の軌道は観測通りにずれるのだ。

     しかし以前には、皆既日食の際に観測したところ、その姿を確かに見たと主張した人たちもいたのである。

     一方、ヴァルカンを不要とする相対性理論の検証も、皆既日食が好機だった。太陽によって遠くの星の光が曲げられるか否かを確かめるためである。その観測結果は二つに割れた。時代を超え、皆既日食を舞台にテストされる各時代の新説。物理学者たちの自負と意地も試される。

     物理学上の概念の説明は平易で抵抗なく読める。思い込みによる束縛を巡るドラマが本書のテーマ。それを純粋に楽しめる良書だ。小林由香利訳。

     亜紀書房 2200円

    2017年12月25日 05時21分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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