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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・塚谷裕一(植物学者・東京大教授)

    『次の震災について本当のことを話してみよう。』 福和伸夫著

    近づく「次」、備える努力

     3・11の記憶が薄れ、津波の映像も、計画停電の記憶も、遠いものとなりつつある中、「次の震災」は刻一刻と近づいている。

     昨年末には、根室沖を震源とする巨大地震の危険性が「切迫している可能性が高い」という発表があった。東北沖の地震発生エネルギーもまだ解放しきっていない。東南海に想定される巨大地震も、もういつ起きてもおかしくないとされる。

     それら「次の」巨大地震の中には、被害が震源地周辺にとどまらず、国民の半数が被災者となるケースもあると、著者は推定する。著者は、名古屋大学・減災連携研究センターの長だ。

     冒頭の印象は「そこまで神経質になるのか」という感じで正直、距離感を覚える。名古屋から東京に出張する際、名古屋駅周辺は大地震に対し脆弱ぜいじゃくなので長居しないという。新富士の周辺、また新丹那トンネルを通過する際は緊張して「身構える」。講演会場に着けばビルの安全性に危惧を覚え、会議室では防振対策の不備にはらはらする。過剰反応ではと思わせるほどだが、これは実は計算された導入部のようだ。

     このあと、日本の大都市がいかに危ない地盤の上に築かれているか、少し前の耐震基準がいかに楽観的かつ間違った仮定の下に作られていたかを、順を追って説明される中で、読者は最初の印象が急速に変化していくのを感じるだろう。例えば東京の都心部が江戸時代まで海辺だった「ずぶずぶの」地盤だというのは、改めて解説されると恐怖感を喚起させられる。

     後半、著者は読者と共感が生じたあたりを見計らい、「自助」でなんとか災害を最低限にしようと呼びかける。そのためには個人の努力だけでなく、役所や企業にも、「ホンネ」で語り合ってもらわねばならない。そのための組織を組み立てるまでの逸話は、地震と切り離した一般論としてもたいへん興味深い。次の震災で命を落とさないために、是非一読をお勧めしたい。

     ◇ふくわ・のぶお=1957年生まれ、名古屋市出身。名古屋大教授。専門は建築耐震工学、地震工学、地域防災。

     時事通信社 1500円

    2018年01月29日 05時26分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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