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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

    『ボーリンゲン』 ウィリアム・マガイアー著

     書物と人とが幸せな関係を築けた時代の記録としてドキドキワクワクと読んだ。

     アメリカ合衆国の大富豪夫婦がユング哲学に傾倒した末に「ユング博士、私たちはお金を持ち過ぎています。一体どう使えばいいのですか」と、なんともおどろきの相談を持ちかける。ユングの暮らすスイスの村の名を冠して二人が設立したボーリンゲン基金の目的は「科学の領域で毎年六冊ほどのコストがかかり過ぎて普通では出版されそうにない書物を研究者や研究機関が読めるように出版することです」。その栄枯盛衰を同基金で書籍の編集を担当した著者がつづった。

     ユングはもとより、二十世紀を彩った知の巨人たちが次から次へと登場する。あるテーマと書き手が出会い、その書き手が基金と編集者と出会って、瞬間に火花が散る、熱が高まる。そして、書物が生まれる。

     たとえ未知の著者や書物であったとしても、とにかく書物にまつわる人間たちの精神の冒険小説じみて、四百ページを一気に読まされた。本好きならわかる、そんな一冊である。高山宏訳。

     白水社 6800円

    2018年02月05日 05時21分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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