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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・森健(ジャーナリスト)

    『精神障害とともに』 南日本新聞取材班

    過酷な過去と共生の道

     精神障害に社会が向き合う局面が増えてきた。2年前には障害者差別解消法が施行され、今春には改正障害者雇用促進法が全面施行される。だが、私たちは精神障害者のことをどれだけ理解しているだろうか。

     そんな疑問のもと、鹿児島県の南日本新聞の取材班が取材した結果、人口に対するベッド数、入院患者数、20年以上の長期入院患者数が最も多いのが鹿児島だったという。

     「鹿児島の報道機関こそ取り組むべきテーマではないか」

     それが取材の出発点になった。

     過酷な現実に言葉を失う場面も少なくない。66歳の女性は入院生活に「当初は不安もあったけど今はもう慣れた」と言う。だが、これまでの入院期間は48年間。ほぼ半世紀、院内で暮らしてきた。一昨年10月時点でも鹿児島県では50年以上の入院は33人いるという。

     過去はもっとひどかった。脳の一部を切除するロボトミーに麻酔もかけない電気ショック。労働力として事実上、労働を強いていた病院もある。取材班は非人道的な扱いがまかり通った過去を掘り出しながら、変わりつつある現在も描いていく。

     20年入院していた女性(59)は、自立訓練施設を経て、パートで働くようになり、職員寮へ移った。通算20年以上入院した経験をもつ男性(66)も一人暮らしを可能にした。どちらも訪問看護や周囲の支援があった。見守るのは医師や看護師だけではない。かつて精神疾患を患った経験者も「ピアサポーター」として現役の患者を支える。

     周囲の支えがあれば、精神障害者も入院生活を抜け出して、地域で生活できるのだ。多くの事例を読み進むうち、必要なのは、信頼あるコミュニケーションや支え合えるコミュニティーだということが見えてくる。

     多くの精神障害者が実名で取材に応じたのは、社会の意識を変えたいという思いがあったからだという。読み終えたとき、精神障害への意識はどれだけ変わっているだろうか。

     ◇みなみにっぽんしんぶん=鹿児島県の地方紙。連載記事は日本医学ジャーナリスト協会賞大賞(新聞・雑誌部門)受賞。

     ラグーナ出版 1400円

    2018年02月12日 05時23分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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