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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)

    『ジェネリック』 ジェレミー・A・グリーン著

    後発薬普及による功罪

     共済組合から「医薬品差額通知」が届いた。先発薬をジェネリックに変更した場合、いくら安くなるのか示してある。わが保険証にはジェネリック希望シールが貼ってあり、差額はわずかだが、はたして後発薬は先発薬と同一なのだろうか?

     ジェネリックの歴史を、アメリカを舞台として描き出した本書は、こうした疑問の優れた手引きだ。genericの原義は「一般名、総称」。先発薬のブランド名ではなく、一般名で処方が行われなければ、ジェネリックの出番はない。一般名の整備こそジェネリックの必要条件であった。そして、有力な特効薬の特許が切れた一九六〇年代、ジェネリック時代が始まる。

     だがブランド側は、薬の模倣=偽造というキャンペーンを展開、ジェネリックを悪役に仕立て、安価な薬はリスク有りと消費者に思い込ませようとする。このあたり、「安かろう悪かろう」という発想に陥りがちな、人間の思考パターンにつけこんでいる。消費社会においてはブランド信仰は根強く、薬も例外ではない。先発薬とジェネリックは同一ではなく、「同等」なのであって、先発薬と「必要十分に似ている」ことがジェネリックの条件だという。そこで両者の比較はかなり微妙な作業となり、ジェネリックに軍配が上がった事例もある。「無印良品」の後発薬とは、なんたる皮肉!

     ジェネリック化の加速が「パテントクリフ(先発薬の売り上げの激減)」をもたらし、膨大な資金を要する新薬開発の減速が起こっているというデータもある。ふと思いついて、微力ながら支援している「国境なき医師団」のHPを見ると、「特許をなくし、安価なジェネリック薬を製造している製薬会社間で競争が起きれば、薬価に大きな影響を与えることができます」とあった。とはいえ、新薬開発の減速化も無視できまい。読み終えて、むしろ難問を突きつけられた。野中香方子訳。

     ◇Jeremy A.Greene=1974年生まれ。医師・医学史家。ジョンズ・ホプキンス大医学史部門准教授。

     みすず書房 4600円

    2018年02月12日 05時25分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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