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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

    『おらおらでひとりいぐも』 若竹千佐子著

    語りに酔う「東北文学」

     芥川賞受賞の話題作である。関東のどこかとおぼしき町に独り暮らす東北生まれの七十四歳のおばあちゃんのたくましくもユーモラスで、そして男女の親子の生老病死の孤独と悲哀もまたある独白体小説、まずは傑作、なにはともあれ手に取っていただければ。タイトルからして宮沢賢治の『永訣えいけつの朝』だが、さて、東北の出版社のオヤジが一読まず思い浮かべたのは柳田国男『遠野物語』だった。なにせ著者の故郷は岩手県遠野市、あの『遠野物語』の語り/かたりの文化が、あるいは井上ひさし作品の、そしておそらく南の『苦海浄土』の遠いこだまがここには確かにある。

     東北のおばあちゃんの独り語りが話題となって、ところが少なくとも東北の読者にはこの語りにおどろきはない。むしろ、読みやすい。このような語り、東北では実はいまもそこかしこにある。もちろん、相手が例えば〈東京〉から来た旅人だったりすれば、幾分かは通じるように標準語を交えてしゃべる。本書も標準語と東北語を巧妙に饒舌じょうぜつに織り混ぜて、そんな東北のおばあちゃんの喋りに近い。あの柳田の〈日本語〉の文体を超えて、『遠野物語』の語り手であった佐々木喜善がほとばしらせたのはこんな東北語だったかもしれない。あるいは井上ひさし『吉里吉里人きりきりじん』など一連の作品を思い出すのもいい。だから、私たち東北の読者にとって本書の語りはただ「新鮮」ではなくて、そう、これこそ東北語と誇らかに自らを母語に回帰させる、そんな語りなのだ。

     いささか唐突に思われるかもしれないが、東北語の復権、そこに東日本大震災からの東北の復興がまっすぐにつながるような気がしてならない。言葉の復権はそのまま地域再生への道標となりはしないか。東日本大震災からやがて七年を迎えて、いよいよ「東北文学」の時代と、そう思わせる一冊の登場である。語り/騙りに酔いながら思う、ああ、東北でよかった、と。

     ◇わかたけ・ちさこ=1954年生まれ。主婦。55歳から小説講座に通い始める。本作で2017年、文芸賞を受賞。

     河出書房新社 1200円

    2018年02月12日 05時27分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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