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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・服部文祥(登山家・作家)

    『等身の棋士』 北野新太著

     最年少棋士の藤井聡太四段(当時)の快進撃。加藤一二三ひふみ九段の引退。佐藤天彦あまひこ名人と将棋ソフトの対決。羽生善治竜王の永世七冠達成と国民栄誉賞への流れ。2017年は将棋界にとって華やかな一年だった。

     その一年を中心に現場で追い、あふれ出す空気感やエピソードをやや情緒的なエッセイに仕立て上げている。

     天才藤井四段を巡る興奮。人工知能が人間の頭脳を追い抜いた手触り。奨励会からプロへの試練。すぐそこにあるタイトルが手からこぼれ落ちる瞬間。「よろしくお願いします」の挨拶あいさつで対局が始まれば、数時間後には勝者と敗者が決まる。悪手、善手、名局はあっても、それらは表には現れず、勝利だけが棋士の存在意義となる。

     〈棋士にとって投了を告げるのは、少しだけ死ぬことなのだ。〉

     強いと言われるもので勝率は八割前後。将棋という難解なゲームを舞台に、知性を削り合う人間の姿は美しい。そんな生き様を選んだ者たちの自己表現が対局に凝縮し、対局後には、かすれたようで濃厚な情景が漂っている。(ミシマ社、1600円)

    2018年02月26日 05時21分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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