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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・一青窈(歌手)

    『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』 木下龍也、岡野大嗣著

    ポップでパンクな短歌

     とてもポップな短歌だ。こんなにも鋭い言葉をぎゅっと凝縮して差し出されたら、わたしはもうぐうの音も出ない。日常のふとした事を言葉に直し、再提示するのを詩人と呼ぶならば、テンポは抜群に良い上に、旬をつかんでいるのですでにセンスの良いラッパー(2人組)のようだ。

     和歌の上の句(五七五)と下の句(七七)を別々の人が詠む連歌形式でもなく、リレーで歌を贈り合っているのか、真実のほどは定かではないが、ちょっとした現代版の文通のようにも思えた。男子高校生に成り代わった作家が7月1日から7日までの梅雨明けの日々を描いたそうで、その若さがうだるような暑さとともにまぶしく迫ってくる。 

     2人の作家が名前を連ねる歌集は珍しいと思って手に取ってみたら見事に面白かった。

     Googleに聞いてもヒット0だったからまだ神にしかバレてない

     ひとつかみ百円でいいだれかだれか心の穴に手を入れてくれ

     ツイッターやラインなどで言葉が希薄になってきている今こそ、こういう言葉の使い方で人をき付ける人が増えるとうれしい。

     こんなにも言葉は自由で面白いのだ。了解を省略して「りょ」と書くのではなく、むしろ文章自体を錬磨して短歌のようなやりとりをする人たちがちまたあふれたら素敵ではないか。小説だと頭から煙が出てしまう人にも読み物の入門としてこの短歌は向いていると思う。それほどに例えの絶妙さはぽんと膝を打ちたくなるのだ。

     表現が写実的なので、インスタグラムよりももはや写真集のようにも楽しめるのではないかと思う。切り取られたシーンひとつひとつに胸をきゅっとわし掴みにされた。こういうパンクみたいな短歌書く若輩、待っていたんです。大島依提亜の装丁もシンプルながらスパイスが効いていて良い。

     ◇きのした・たつや=1988年山口県生まれ。歌人。◇おかの・だいじ=1980年大阪府生まれ。歌人。

     ナナロク社 1400円

    2018年03月05日 05時21分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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