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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・橋本五郎(本社特別編集委員)

    『玄鳥さりて』 葉室麟著

     「わが望みは大切なる友を守ることです」。このように言い切り、一切の見返りを求めず生涯を貫くことは可能だろうか。三浦圭吾は13歳の時、8歳年上の樋口六郎兵衛の稽古を受け、深く信奉する。風采はあがらないが、あたかもつばめ玄鳥げんちょう)のごとくひらりひらりと飛ぶような長大な剣を使う六郎兵衛は圭吾にやさしくする。友だと思っているからだ。が、実は深い事情があることが明らかになる。

     「鬼砕き」の必殺剣を編み出した六郎兵衛だが、10年の遠島処分を受けるなど不遇な日々を送る。一方、圭吾は主君や2人の家老の激しい権力闘争の渦に巻き込まれながら次第に権勢欲を強めていく。六郎兵衛を刺客として利用することさえもいとわなくなる。

     それでも六郎兵衛は友の危うき時に剣を使うことをためらわない。圭吾は絶体絶命に陥り、ようやく自分を取り戻す。どれほど悲運に落ちようとも人を恨まず、闇の奥底でも輝きを失わない六郎兵衛の生き方を思ったからだ。

     物語は最後に予想外の展開をする。昨年12月急逝された著者の遺作は、いかに生きるかを深く考えさせずにおかない。

     新潮社 1500円

    2018年03月05日 05時23分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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