文字サイズ
    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・橋本五郎(本社特別編集委員)

    『自民党秘史』 岡崎守恭著

    政治家の器量を問う

     「政策」が大事だという。その通りだが、政治の基本は「人」である。長い政治記者生活を通じての著者の信念だ。それなのに今はどうだろう。「顔」の見えない政治が跋扈ばっこしている。その怒りがこの書を書かせたと言ってよい。そしてあたかも神が細部に宿るように、一見小さなエピソードに政治の本質が潜んでいる。それが満載されている。

     「二階堂擁立劇」があり、薄氷を踏む思いで総裁再選にこぎ着けた中曽根康弘氏は、その立役者・田中六助を病床に見舞い、感謝の気持ちも込めて軽井沢の紅葉の小枝を持って行った。その「赤」を見ながら田中は句を詠んだ。

     野分去り すみわたりたり あかね燃ゆ

     総裁選を控え、宮沢喜一が金丸信に会った。その第一声は「金丸先生は農大を出ていらっしゃる。そいつはお出来になりますなあ」だった。金丸は「まあ表門から入って裏門から出たようなもんですがね」ととぼけたが、いい気分であったはずがない。それでも悩んだ末「国民の声」を考え、宮沢を支持した。

     政治家の器量は夫人の器量にもつながる。金丸夫人・悦子さんの金丸評は秀逸である。

     「金丸は何かすごい政策を持ってなんとかとか、そういう人じゃないんです。政治家は多くの耳と冷たい目を持って、流されないようにしていけばいいんですよね。まず池に石をポーンと投げて、その波紋でみんなに考えさせるというやり方ですね」

     この書は「政治記者」論でもある。著者はある時から割り切って、政治家の人となりを知ることに重点を置いてきた。極言すれば、取材というより毎日、毎日、「顔」を見に通っていたのだと謙遜する。そこには、「顔」を見ようとしない昨今の記者への不満があるのだろう。

     その意味でも、この書は副題の「過ぎ去りし政治家の面影」とともに、「過ぎ去りし政治記者の面影」をも描いている。

     ◇おかざき・もりやす=1951年東京都生まれ。日本経済新聞の政治部長、北京支局長などを歴任。

     講談社現代新書 800円

    2018年03月12日 05時25分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大手町モールのおすすめ
    帆布鞄
    リンク