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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・加藤 徹(中国文化学者・明治大教授)

    『真説 孫子』 デレク・ユアン著

    東西の戦略思想を比較

     昨年、日本の大学は続々と「軍事研究禁止」を宣言した。主に理系的な研究を念頭に置いた宣言だろうが、本書を読むと、漢文古典も軍事研究と無縁ではない。

     2500年前の兵書『孫子』は、日本では人生哲学の古典として、国語の先生が解説する。しかし中国語圏や英語圏では、『孫子』は今も戦略書としてホットな軍事研究の対象だ。

     『孫子』は18世紀のパリでフランス語訳が出版されて以来、西洋でも読まれてきた。本書は、中国人の学者が、英語圏における従来の『孫子』研究の限界を指摘しつつ、中国の戦略思想文化の原理を解説した本である。原著者は1978年に香港で生まれ、英国の大学で戦史学や戦略学を学んだ。本書の土台となった学位論文は、米陸軍大学や豪陸軍大学の研究機関で必読文献に選ばれている。

     本書は『孫子』を引用しつつ、中国と西洋の戦略思想を比較する。クラウゼヴィッツや、『孫子』をヒントに20世紀の国家戦略を立てた英国のリデルハート、米国のジョン・ボイド、戦略思想家としての毛沢東が解説される。

     平和なスローライフの本と思われている『老子』も、無形の「水」を最強の理想とする『孫子』と同系の戦略思想書として分析される。

     『孫子』の「彼を知り己れを知れば百戦してあやうからず」の解釈も斬新だ。多くの人は、この言葉を、敵についての情報を知るインテリジェンスの重要性を説く格言だと理解する。著者によれば、これは間違いだ。著者の解釈は――本書を読んでのお楽しみである。

     著者は中国人だが、柳生やぎゅう宗矩むねのり『兵法家伝書』の陰陽論的な考えから大きなインスピレーションを得たことを、最後の謝辞で強調している。

     軍事研究を禁止しない外国の大学では、このような視点からも古典を研究できる。筆者は軍事の門外漢だが、いろいろ考えさせられた。奥山真司訳。

     ◇Derek M.C. Yuen=1978年香港生まれ。香港大学講師のほか、コメンテーターとしても活動。

     中央公論新社 2900円

    2018年03月12日 05時26分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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