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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・森健(ジャーナリスト)

    『津波の霊たち 3・11 死と生の物語』 リチャード・ロイド・パリー著

    英国人が見た死の受容

     春が来ると、多くの人があの日を思い出す。一万八千人あまりの死者・行方不明者が出た東日本大震災。駐日二十年以上の英タイムズ紙東京支局長が宮城県石巻市の大川小学校の悲劇から津波という災害とその死の意味を問い返す。

     大川小では七十四人の児童と十人の教職員が津波に飲まれた。なぜそんなことになったのか。大川小へ赴いた著者は現地の地理的特性に気づく。海岸から北上川を四キロ遡上そじょうした地域で周囲は山。「理想的な原風景」だった。

     本書で中心的に描かれるのは三人の母親だ。五年生だった次女の母親、六年生だった長男の母親、六年生だった長女の母親。子どもをうしなった悲しみは読むほうが苦しくなるくらい丁寧に描かれるが、母親たちの思いは必ずしも一致してはいない。ある母親は避難時の真相追求に力を注いでいくが、長女の遺体を自分で捜そうと重機の資格までとった別の母親は真相追求の裁判には否定的な感覚をもつ。

     著者は大川小をめぐる学校や地域の推移を描きながら、かの地に根づく因習も冷静に指摘する。四世代で暮らす家では祖父が隠然とした圧力をもっていた空気を明かし、大川小の校庭でどこに避難するかを議論していた際も七〇歳以上の地区住民が「山」ではない避難場所を主張していたことを指摘した(その場所に津波は襲いかかっていた)。日本的な伝統のせいで人的被害が増えた可能性も著者は示唆する。

     もう一つ本書で重要な要素が死の捉え方だ。ある僧侶は大量死を前に、お経を唱えられなくなる体験をする。霊的な経験をした人も多くおり、二十五人の霊に取りかれた人もいた。そうした人に「除霊」を行った僧侶は、著者に対し「相手に寄り添い、自分なりの答えを見つけるまで一緒に横を歩く」しかないと語る。

     震災が浮き上がらせたものは何だったのか。日本人にとって死とはどういうものなのか。そんな深い問いが読後も残る。濱野大道訳。

     ◇Richard Lloyd Parry=1969年生まれ。オックスフォード大卒。英「ザ・タイムズ」紙東京支局長。

     早川書房 1800円

    2018年03月19日 05時27分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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