『石を聴く イサム・ノグチの芸術と生涯』 ヘイデン・ヘレーラ著
人の視点を超える時空
一九八八年に彫刻家イサム・ノグチが亡くなったあと、その遺灰の一部は卵形の石を割って中におさめられ、石は再び閉じられて瀬戸内海近くの丘のてっぺんに置かれた。本書の末尾でそう知ったとき、正直ほっとしてしまった。それまでが、あまりに目まぐるしい人生だったからである。常に変わる居住地、いつも違う恋人。恋人の中には画家のフリーダ・カーロ、インド初代首相ネルーの
だがこの華やかさは、帰属すべき「家」を持ち得なかったことの裏返しでもある。根無し草の背後には、生来のボヘミアン的性格に加えて、日本人の父とアメリカ人の母の間に生まれたという出自が影を落としている。特に父、米次郎の存在は大きい。米次郎はアメリカで詩人として成功した文学者だったが、生活より美を優先するタイプで、身重の恋人を置いて帰国、ノグチは私生児として生まれた。しかも戦争中の米次郎は国粋主義者となり、息子との関係はますます難しいものになっていた。
ノグチにとって石を彫ることは「永遠に続いていく変化の過程に一時的に侵入すること」だったと著者は言う。抽象的だがどこか生命を感じさせる形態は、
◇Hayden Herrera=美術史家、キュレーター。ニューヨーク市立大で博士号取得。著書に『マチスの肖像』。
みすず書房 6800円