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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

    『文字に美はありや。』 伊集院静著

     肉筆の文字は面白い。書いた人の心の揺れ動きが、肖像画よりよく現れる。本書は書道の概説書ではない。文字に美しい、美しくないということがあるのか、という疑問から出発し、「書」を手がかりに人間の思いをたどるエッセーである。

     3000年前の甲骨文字から、現代の日本まで、有名人や無名人のさまざまな「書」を写真つきで取り上げ、作家独特のセンスで分析する。王羲之おうぎしや空海の名筆も出てくる。近藤勇が書いた借用書や、松尾芭蕉の草稿、坂本龍馬や夏目漱石の手紙、太宰治や井上ひさしの生原稿、果てはスペインの画家ミロの作品、立川談志やビートたけしの「書」、書道ロボット「筆雄」の「肉筆」までもが俎上そじょうにのぼる。

     著者の語り口は落語家のように軽妙洒脱しゃだつだが、人間の内面を洞察する分析は鋭い。例えば、信長、秀吉、家康の肉筆はそれぞれ個性的である。が、細川ガラシャが残した手紙の文字のほうが、筆運びも情念もずっと大胆だ。その理由はなぜか、など、深く考えさせられる。「書」の面白さと奥深さを満喫させてくれる一冊である。

     文芸春秋 1600円

    2018年04月02日 05時21分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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