<速報> レアル・マドリードが3連覇…欧州CL
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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・服部文祥(登山家・作家)

    『トレイルズ 「道」と歩くことの哲学』 ロバート・ムーア著

    生命の小道 謎に迫る

     北米アパラチア山脈の麓をつなぐ自然歩道アパラチアン・トレイルは全行程が3500キロあり、世界でもっとも有名なロングトレイルである。近年ではシーズンに二千人ほどのハイカーが、人生の意味や癒やし、挑戦、逃避、瞑想めいそう、あるいは神を求め、全行程踏破スルーハイクに訪れる。

     学生時代から読書とアウトドアに馴染なじんだ著者もスルーハイクをおこなったが、そこで他のハイカーとは違う根源的な問いに取り付かれた。いったい「トレイル」とはなんなのか。

     ここでトレイルとは、生き物がその身体を使い、時間をかけ、時には世代を超えて踏み固めた小道や歩道を指している。謎の中心はトレイルに見え隠れする生き物の知性。たとえば、アリはエサに辿たどり着くトレイルをフェロモンを印にして作り出す。多くのアリがその道筋を辿るうちに小さなトライ&エラーが集積し、アリの行列はより効率的なルートをとるようになる。まるで知性があるかのように……。著者がトレイルに感じる、命の優美さや、効率性と柔軟性と耐久性のバランス、それを作り出す生き物たちの知恵はいったいどこから来るのか。

     トレイルの謎を求めて著者は、道ではない原野をき分け、さまざまな動物の踏み跡を追い、ときには遊牧民、ときにはハンターと行動をともにする。効率的な移動という主要な目的を維持しながら、マイナーチェンジを繰り返すさまざまなトレイルは、それを辿る生き物にとって、外在化した情報であり、交流の場であり、伝統であり、社会的記憶装置でもある。北米先住民のトレイルは、先住民が口述で伝えてきた物語と合わさることで、後世に教訓や民族としてのアイデンティティーを伝えていく。

     道が四方八方に分散するように、著者の調査と思索も多岐にわたる。トレイルに迫りながら本書は、同時に命の謎に迫り、ひとつの道として読者に踏み固められることを待っている。岩崎晋也訳。

     ◇Robert Moor=米イリノイ州生まれ。ジャーナリスト、ハイカー。本書で全米アウトドアブック賞受賞。

     エイアンドエフ 2200円

    2018年04月02日 05時25分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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