<速報> レアル・マドリードが3連覇…欧州CL
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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・戌井昭人(作家)

    『焔』 星野智幸著

    キリキリした世界で

     誰でも自分ではない何かに生まれ変わりたいと願ったことがあるはず。わたしもフクロウになりたいとか熊になりたいとか考えたことがある。だが他の人間になりたいと思ったことはない。それは別に自分に自信があるとかではなく、面倒な存在の人間に、生まれ変わってまで、なりたいとは思えないからだ。

     『(ほのお)』は、そんな人間が、違う自分に変わっていく九編の話だ。九人の人間ひとりひとりが、なにかに変化していく自分を語り、消えていく。それが幸せだったのか、不幸だったのか。

     場所は日本だが、温暖化が激しくなっていて四〇度を超えている日もある。また民族間での争いごとが絶えず、戦争が起きていて、さらに徴兵制もある。終末がすぐそこにやって来ているようで、不穏な空気が漂い、なんだか人間はヘンテコな状態になっている感じだ。

     木にぶら下がってぐるぐるまわり涼を求めたり。気づいたら死人と生活していたり。泣き続けたり。ハンガーを集めてカラスになったり。土の中に埋もれていったり。自身が金になったり。介護をのがれて父を捨てたものの罪悪感にかられたり。星野智幸ならぬ星野幸智が登場したり。力士をやめておかみさんになろうとしていたり。このような人たちが登場する。

     彼らの物語は、恐ろしさがある一方で、どこかトボけているところもあり、ユーモラスだが、世界はキリキリした状態で、先のない方に向かっている。

     そして現在われわれの生きている世間を見渡すと、この小説とリンクしていることに気づく。戦争、温暖化、貧困、暴力、果ては相撲界まで、すべてがキナ臭い方に向かっている。まるで星野さんの書いた世界が、現実に押し寄せてきているようだ。本書は、そこにスリルがあり、楽しみもあるが、このままでは世の中が本当にマズいことになっていくのではと思えてくるのだった。

     ◇ほしの・ともゆき=1965年生まれ。作家。『夜は終わらない』で読売文学賞。近著に『のこった』など。

     新潮社 1600円

    2018年04月02日 05時28分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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