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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・森 健(ジャーナリスト)

    『記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実』 樋田毅著

    時効後も真相を追う

     なくなった同僚のため、ここまで深く取材を進めていたことに驚きを禁じ得なかった。1987年5月3日、朝日新聞阪神支局で起きた「赤報隊」による襲撃事件。本書はその後を追い続けた取材記録である。

     あの日、散弾銃を持った目出し帽の男が同支局に乗り込み、当時29歳の小尻知博記者を射殺し、42歳だった犬飼兵衛記者に重傷を負わせた。著者は事件発生当初から取材班に加わり、2003年3月の公訴時効成立まで「犯人を追い続け」、取材班解散後も取材を継続してきた。

     結論から言えば、本書で取り上げる人物と事件との関係は立証できていない。それでも著者が公刊したのは「時効が成立しても、真相に挑む過程を伝える社会的な意味は十分にある」と考えたためだ。

     本書の構成は四つ。第1部は当時8件続いた赤報隊の事件を取材結果に基づき物語風に記した犯行経過。第2部は、新右翼とその周辺、第3部はある宗教団体とその政治団体について、第4部は捜査側との関係や朝日社内の実情などである。

     本書のすごみは著者らが捜査線上にあがった人物に当たっていくことだ。警察庁があげた「赤報隊の可能性のある9人」は全員が右翼。多くは赤報隊の行動=テロを肯定していたが、著者は思想・信条に迎合せず、信頼関係を築き、会っていく。

     興味深いのは第3部、ある教団の動きだ。当時朝日は教団の霊感商法を問題として報じていたが、そこに教団は反発していた。事件発生3日後に襲撃に使用した散弾と同じ種類の散弾容器が脅迫状とともに朝日に送られてきたが、その郵便物は教団本部がある地域から送られていた。教団は当時全国で26店の系列銃砲店をもっていた。警察は同教団も捜査対象にし、28人の不審人物のリストも作成していた。

     言論へのテロに対して、どこまでも取材を諦めない。報道関係者ならばその姿勢に感じるところは小さくないだろう。

     ◇ひだ・つよし=1952年生まれ。78年朝日新聞社入社。同新聞襲撃事件の取材班を経て、社会部次長などを歴任。

     岩波書店 1900円

    2018年05月07日 05時24分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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