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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

    『科学のミカタ』 元村有希子著

    遠くて近き最新トピック

     読書は、書き手と読み手の勝負だ。私は読書委員だ。著者のわなにかかってなるものか。そう身構えて読む。が、この本には見事に一本取られた。

     本書は、科学の最新のトピックの数々を紹介するエッセーである。冒頭にいう。「2017年秋、ある日の明け方のことである。ある人物が私の夢枕に立った」

     なぜか清少納言だった。科学記者である著者は奇縁を感じ、清少納言のエッセー集『枕草子』の「ものはづけ」の趣向にならい、科学の話題をあれこれ軽妙に語る。

     「こころときめきするもの」では、元素のニホニウムや、はやぶさ2、地層のチバニアンなど、わくわくする話。「すさまじきもの」では、トランプ大統領のパリ協定離脱宣言や、核のごみ、環境危機時計など、あきれる話。「おぼつかなきもの」は、ゲノム編集やAIなど、気がかりな話。「とくゆかしきもの」は、首都直下地震やロボット、都市鉱山など、もっと知りたい話。

     たしかに面白い。私のような超文系人間もさくさく読める。が、銀ブラにつきあわされてショーウィンドーめぐりをするような感もある。

     それが一転するのが、最終章「近うて遠きもの、遠くて近きもの」だ。著者はがんの話題で、自分の体験を赤裸々に語る。父ががんで亡くなる。半年後、自分も直腸がんが見つかり、手術を受ける。平均寿命のデータを見て「あと38年も生きるのか私は」と考え込む。子孫も残さず生殖年齢も過ぎた独身の自分は、地球の資源を使って生きていいのか。著者は、進化論の「血縁選択」の考え方から、生きる勇気を得る。兵隊アリや働きバチは、自分は子孫を残さず、他個体の世話ばかりする。なぜか。その合理性を科学的に説明するのが「血縁選択」の理論だ。

     一見、遠くにある科学は、身近な問題とつながっている。科学の見方は人生の味方。科学リテラシーの必要性を、すんなり納得させられた。

     ◇もとむら・ゆきこ=1966年生まれ。89年毎日新聞社入社、2017年に科学環境部長。著書に『理系思考』など。

     毎日新聞出版 1500円

    2018年06月11日 05時22分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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