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    地域の伝統野菜 次世代へ

    認定制度で多様性守る

     各地で古くから栽培されてきた「伝統野菜」を次世代に受け継ごうとする動きが広がっている。

     大量生産される品種とは異なる独特の味や形が再評価され、品種の認定制度も拡大してきた。専門家は「生物多様性や遺伝資源を保全するためにも重要」と指摘する。

    希少価値

    • 江戸東京野菜の「ノラボウ菜」の出来を確かめる宮寺光政さん(東京都小平市で)
      江戸東京野菜の「ノラボウ菜」の出来を確かめる宮寺光政さん(東京都小平市で)
    • 研究用の種子などが納められている農研機構遺伝資源センターの保管庫(茨城県つくば市で)
      研究用の種子などが納められている農研機構遺伝資源センターの保管庫(茨城県つくば市で)

     JA東京中央会が「江戸東京野菜」として認定する「ノラボウ菜」を栽培する東京都小平市の農家、宮寺光政さん(67)の畑を訪ねた。縁がギザギザの葉っぱに、太い茎。かじってみると、かすかに甘い。

     ノラボウ菜は東京都の多摩地域で古くから栽培されてきたアブラナの仲間。江戸時代の天明・天保の飢饉ききんでは、農民らが、この野菜で飢えをしのいだと伝えられる。

     7年前に農協職員を退職し、実家の農家を継いだ宮寺さんが栽培してきた伝統野菜は、「寺島ナス」や「東京長カブ」など10種以上。農地が約30アールと小規模だったため、希少価値がある伝統野菜の栽培に力を入れることにした。「誰かが栽培しないと、いずれは種がなくなってしまう」との危機感も背中を押した。

     現在、市場に出回っている野菜は、収穫量が多く、形や大きさが同じで運びやすいように品種改良された「F1種(一代交配種)」が主流。伝統野菜は大量生産に向かないうえ、他の野菜と交雑しないように距離を離して栽培したり、自分で花粉をつけたりと、手間もかかる。

     宮寺さんは「昔ながらの野趣あふれる味がいい。収穫時期がそろわないから大量に出荷できないけれど、自然ってこういうもんだよね。体が動く限り作り続けたい」と笑った。

    食文化も支える

     伝統野菜に詳しい東北大の香坂玲教授(41)は「伝統野菜は遺伝資源としての価値があると同時に、地域に根づいた食文化を守る役割も果たす」と語る。伝統野菜の明確な定義はないものの、生物多様性と地域文化を支える役割の再評価が進んだ結果、伝統野菜の品種を独自に認定する制度が拡大している。

     「江戸東京野菜」は昭和40年(1965年)頃までに東京で栽培されていた野菜が対象。2011年から認定が始まり、現在は45品目が登録されている。

     JA東京中央会で営農農政を担当する水口均さん(63)によると、参勤交代で全国各地の野菜が持ち込まれた江戸では多様な品種が栽培されていたが、高度成長以降は大量に収穫できて形の整ったF1種が求められるようになり、次第に失われた。現在、伝統野菜を作る農家は都内の農家の約3%に当たる約180戸に過ぎない。

     京野菜で知られる京都府は取り組みが早く、1988年に府が「京の伝統野菜」の定義を定め、現在は37品目が認定されている。府などによると、60年代にはすでに京野菜を保存する動きがあり、74年には伝統野菜の種子を農業試験場で保存する取り組みも始まった。府の担当者は「京野菜が失われると、伝統的な京料理も作れなくなるとの危機感があった」と話す。

    22万品種を保存

     農業・食品産業技術総合研究機構の遺伝資源センター(茨城県つくば市)には、国内外から集めた野菜など約22万4000品種が保存されている。根本博センター長(59)によると、長期保存用の保管庫(286平方メートル)には、種子約40万点の保管が可能。内部を氷点下18度に保ち、少なくとも100年間、種子を発芽できる状態にしておくことができる。庫内が氷点下1度で、研究用の種子などを保存する保管庫もある。

     種子の保管は将来への備えだ。一つの品種だけを栽培していると、未知の病気が発生した場合、全滅する恐れが大きくなる。地球温暖化が進み、高温で現在の作物が栽培できなくなる可能性もある。保存した種子の中に、こうした病気や高温に強い遺伝子が残されているかもしれない。

     根本さんは「将来の環境変化に対応するには、多様な品種、遺伝子を保存していくことが重要。不要なものはありません」と話している。(大山博之)

    2017年04月03日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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