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    旬の食べ物、お酒や料理にまつわるニュースのコーナーです。

    「阿蘇をコーヒーの里に」高校生ら奮闘

    地震被害乗り越え 観光資源化めざす

     阿蘇山を望む熊本県阿蘇市の高校生たちが3年前から、国内では珍しいコーヒーの試験栽培に挑んでいる。高齢化が進む地元農家に将来の栽培作物として提案するのが目的。2016年、初収穫にこぎ着けたが、直後の熊本地震で栽培用ハウスが停電し、枯死寸前に陥った。その危機も丹精尽くして乗り切り、今は「復興への観光資源に」という機運も膨らんでいる。(地方部 江藤 一)

    ブドウのように甘く

    • コーヒーの木のわき芽を摘む2年生たち(2017年4月、阿蘇中央高阿蘇清峰校舎の温室で)
      コーヒーの木のわき芽を摘む2年生たち(2017年4月、阿蘇中央高阿蘇清峰校舎の温室で)

     「さあ、実をもいで、味をみてごらん」。4月中旬、県立阿蘇中央高阿蘇清峰校舎の付属農場。ハウスに集まった農業食品科の2年生4人が指導の後藤教諭(59)に促され、真っ赤に熟したコーヒーの実を口にした。

     「あれ、甘い」。ブドウ並みの甘さに驚きの感想が飛び出した。予想通りの反応に後藤教諭は「飲むコーヒーは苦いが、果実は甘い。私たちはそこに目を付けたわけだ」と笑顔を見せた。

     コーヒーの木は40本。小さな白い花が落ちた後に実を付ける。4人はこの春、手入れを3年生から引き継いだばかり。そんな彼らに後藤教諭は「木の状態と必要な手入れは木が教えてくれる。ここではコーヒーの木こそ先生だ」と教える。

    果樹栽培の適地

     阿蘇地方の特産は高菜漬け。高菜の畑が水田と共に広がるが、適度な日照時間と夏でも涼しい気候が果樹栽培にも適している。15年前、同高に赴任した後藤教諭も「ここなら上質の果物が作れる」と確信。パイナップルやバナナの試験栽培に乗りだし、成功した。

    • 果樹栽培に適した気候の阿蘇地方
      果樹栽培に適した気候の阿蘇地方

     ただ、実際に農家に栽培してもらったとしても、どちらも新規参入の壁は厚い。それに高齢の農家にはもっと少ない手間で栽培できて、しかもよそになく、付加価値の高い作物が必要だった。

     後藤教諭が着目したのがコーヒーだった。収穫に人手はいるが、普段の手入れは軽作業で済む。沖縄や長崎のコーヒー農園を見学したことがヒントになった。

    2016年冬に初収穫

    • 初収穫の豆から抽出した至福の一杯を味わう生徒たち(2016年)
      初収穫の豆から抽出した至福の一杯を味わう生徒たち(2016年)

     飲料に供されるコーヒー豆は果実から果肉を除いた種を乾燥させたもの。後藤教諭は「甘い果肉ごと焙煎(ばいせん)し、阿蘇の湧水でコーヒーを入れたら、独自の味が生まれる」と考えた。

     こうして2014年春、コーヒーの苗木40本を購入し、学校のハウスに植えた。生徒たちも新たな挑戦に胸を躍らせ、毎日、害虫や病気の葉の駆除に努めた。

     初収穫は16年冬。1本の木からザル1杯の豆が採れた。それを乾燥・焙煎し、粉にひいてお湯を注いだ。すると「コーヒーながらアップルティーのような甘さと香り」(後藤教諭)を放つ一杯に仕上がった。

    地震で枯死寸前

    • 熊本地震後、枯死寸前となったコーヒーの木(2016年)
      熊本地震後、枯死寸前となったコーヒーの木(2016年)

     巨大な揺れが襲ったのは、それからまもなくの4月16日。ハウスは停電で温度調節不能に陥り、コーヒーの木は3日間ほど50度近い室温にさらされた。枝は力を失い、葉も茶色に変色し始めていた。

     生徒たちのショックは大きかったが、残った青い葉に希望を見た。復活をかけ、枯れた枝と葉を切り、追肥を施した。懸命の手入れで、ふた月もすると40本全て生気を取り戻し、冬、再び赤い実を付けた。

    被災者に振る舞い好評

    • 熊本地震で被災した南阿蘇村の陽ノ丘仮設団地でコーヒーをお披露目(2017年3月)
      熊本地震で被災した南阿蘇村の陽ノ丘仮設団地でコーヒーをお披露目(2017年3月)

     今年3月、後藤教諭と生徒、卒業生らは地震の被害が大きかった南阿蘇村の()ノ丘仮設団地を慰問し、被災者にコーヒーを振る舞った。「甘さがいい。子供でも飲める」「また飲んでみたい」と好評だった。自信にもなったし、何より癒やしの時間をプレゼントできたことがうれしかった。

     評判はさらに広がる。後藤教諭に焙煎や抽出を指導、生徒にも技を伝授することになっているコーヒー豆専門店(菊陽町)経営の竹下幸輝さん(46)は「入手困難な国産豆と聞けば、欲しがる愛飲家は多いはず」。また同市に近い小国町では、発電会社が地熱発電の余剰熱で阿蘇中央高産のコーヒーの苗木を育てる計画を持つ。

    「コーヒーの里」構想

    • 「コーヒーの里」構想に情熱を燃やす後藤さん(2017年4月、阿蘇中央高阿蘇清峰校舎の温室で)
      「コーヒーの里」構想に情熱を燃やす後藤さん(2017年4月、阿蘇中央高阿蘇清峰校舎の温室で)
    • 熊本地震後のコーヒーの木の様子を生徒に説明(2017年4月、阿蘇中央高阿蘇清峰校舎の温室で)
      熊本地震後のコーヒーの木の様子を生徒に説明(2017年4月、阿蘇中央高阿蘇清峰校舎の温室で)

     後藤教諭は来春定年を迎えるが、コーヒーへの情熱は冷めそうにない。阿蘇中央高と小国町のコーヒーを核に滞在型「コーヒーの里」を構想し、実現に向け、関係者の間を奔走している。

     教え子も恩師に続く。今春、東京農大に進んだ古澤(ふるさわ)(やす)比呂(ひろ)さん(18)の実家は阿蘇市内のキャベツ農家。「高温に耐えたコーヒーの木を前に、『自分も頑張ろう』との意を強くしました。畑を継いだら後輩たちとコーヒーの木を植え、観光客を迎えたい。それも僕らでできる復興だと思います」

     コーヒーの生命力と可能性が高校生や地域を動かそうとしている。「コーヒーの木こそ先生」。後藤教諭の言葉をみんなが改めてかみしめている。

    2017年05月22日 11時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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