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    イギリスの食や酒、文化や歴史に魅せられた人のインタビュー、イベントやニュースをお届けします。
    インタビュー

    ロックに夢中になれる幸せ(5・最終回)…東郷かおる子さん

    • ハイドパークで開かれたアーケード・ファイヤーの屋外コンサート(2014年7月)
      ハイドパークで開かれたアーケード・ファイヤーの屋外コンサート(2014年7月)

    ありがたみ失った音楽

     1990年代になるとヒップホップがロックにとってかわります。黒人のストリートミュージックから派生した音楽が、世界の若者を席巻した。日本のバンドも、黒人のダンスミュージックの影響を多く受けるようになりました。日本のロックバンドといって今、みんなが一斉に思い浮かべるようなバンドってあるんでしょうか?

     それでもブリティッシュ・ロックがなくなると私は思わない。ワン・ダイレクションが持っているパワーとか、結成から30年たっても健在なレディオヘッドが好きな人は多い。U2は頑張っているし、コールドプレイは人気ある。イギリスでは夏になればロックフェスティバルをあちこちでやっている。あの雰囲気はのらくらしていいですね。

     ロックは60年代から10年ごとにすごい変貌を遂げながら、商業化してきた。なまじ昔を知っているから、つまんないなあと思うのかもしれない。でも、音楽のありがたみがなくなってきているように感じます。

     子供の頃、バナナは高級品でした。病気にならないとバナナは食べられなかった。バナナが食べられるから病気になってもうれしいな、みたいな。でも、今じゃ叩き売りされていますよね。何のありがたみもないじゃないですか。

    • クラハムコモンで開かれたコーリング・フェスティバル。トリはスティービー・ワンダー(2014年6月)
      クラハムコモンで開かれたコーリング・フェスティバル。トリはスティービー・ワンダー(2014年6月)

     音楽も、100円のバナナの叩き売りみたいに150円で買えるようになりました。昔はレコードを聴くのも一苦労でした。袋からレコードを出してターンテーブルに載せて、うるさい音を立てちゃダメだとか。いろいろと面倒くさかった。それが今はいつでもどこでもヘッドホンで聴ける。自分のiPodに1万曲も入っていて、最初の1曲目なんて削除することすら忘れている。1万1曲目に気持ちが向かっている。1か月に一定額払えばいつでも好きな曲を聴けるサービスだってある。

     私なんかは、クラウド上に曲が存在していると言われても、何か実感できない。ジャケットを手でつかんでデザインがいいとか悪いとか、ライナーノーツ(解説)が間違えているとか、そういう楽しみがあった。生活の中で音楽の占める割合というか、音楽への期待度が下がっているように感じます。アーティストが何を考えているのか、歌詞で何を言っているのかという、昔のファンが持っていた興味は退化してきているんじゃないでしょうか。

    • 元ローリング・ストーンズのベーシスト、ビルワイマン経営の「スティッキー・フィンガーズ・カフェ」
      元ローリング・ストーンズのベーシスト、ビルワイマン経営の「スティッキー・フィンガーズ・カフェ」

    大切な音楽への思い入れ

     今は音楽以外にも娯楽がいっぱいあるじゃないですか。音楽家の人たちにとっても難しい時代になってきています。自分たちの価値がどこにあるのかと考えざるを得ない。握手券のようなCDの特典ばかり注目される状況はよくないと思います。

    • 約1年ぶりに来日したポール・マッカートニー(2015年4月20日午前、関西空港で)
      約1年ぶりに来日したポール・マッカートニー(2015年4月20日午前、関西空港で)

     先日、ポール・マッカートニーの武道館ライブを見に行きましたが、60代の人ばかりでしたね。チケット代は高いですし、そうだろうなって思います。70年代までにロックを聴いた世代は、音楽への思い入れが強いんです。先生や親に反対されながらも、頑張ってコンサートに行った。情報が少ないなかで必死に調べた。そういう思い入れの作業をしたから、20年後に「まだやっているんだ。行ってみようか」ってなる。ローリング・ストーンズもエリック・クラプトンのコンサートにも、そんな「おじさん」、「おばさん」が集まってくる。60~70年代にたっぷりと思い入れを込めたから、みんな財布のひもを緩めるんです。ある程度余裕があって、老後の楽しみですから。ポールの武道館コンサートで良い席なんて10万円もしましたけど、65歳で10万円惜しくないと思う人がたくさんいる。30年たっても、昔夢中になったものにまた、夢中になれるというのは楽しいじゃないですか。

    <東郷かおる子さん>
     高校卒業後、シンコー・ミュージック入社。1979年から「ミュージック・ライフ」編集長に。日本での熱狂的なクイーンブームの仕掛け人。1990年退社後はフリーの音楽評論家として活躍している。著書に「わが青春のロック黄金狂時代」「クイーン オブ ザ デイ」。

     (メディア局編集部 小坂剛)

     

     

    連載「酒都を歩く」(英国編)(ぶりてん数寄)が本になりました。

    • 『酒場天国イギリス』(中央公論新社)
      『酒場天国イギリス』(中央公論新社)


    ◆日本の居酒屋を舞台にした過去の連載企画「酒都を歩く」をまとめた『あの人と、「酒都」放浪 ― 日本一ぜいたくな酒場めぐり』(中央公論新社)はこちらから

    2015年06月19日 09時18分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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