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    インタビュー

    クラフトビール入門(1)…「工芸品」としてのビール

    • ブリュードッグのオフィシャルバー「ブリュードッグ六本木」は斬新な外装
      ブリュードッグのオフィシャルバー「ブリュードッグ六本木」は斬新な外装

     最近、人気が高まりつつあるクラフトビール。その源流をたどっていくと、イギリスで始まった伝統的なビール造りへの回帰を求める消費者運動に行き着きます。

     2007年にスコットランドで誕生した人気クラフトビール「BREWDOG(ブリュードッグ)」の輸入代理店「ウィスク・イー」(東京都)のイベントディレクターで、パブ文化にも詳しい元木陽一氏(43)に、クラフトビールを楽しむための基礎知識を聞きました。「とりあえずのビール」ではなく、「とっておきのビール」をあなたもぜひ!

    クラフトビールって何?

     クラフトビールって何でしょう。いろんな説明がありますが、職人が美意識を頼りに作った工芸品のように、小規模な生産者が自分たちの理想を追い求めて造りあげたビールだと考えます。お客さんの顔色をうかがう前に、自分たちが造りたいビールのコンセプトがまずある。大量生産ではないから、大手のビールに比べると少し値段は高い。でも、その分、造り手の意図、メッセージがはっきりと出ます。

    • サーバーからグラスについだクラフトビールを出す元木氏
      サーバーからグラスについだクラフトビールを出す元木氏

     ホップや麦芽、ハーブ、副原料の種類や量、アルコールの度数をどうするか。色や香り、苦み、喉越しだけでなく、ネーミングやパッケージングにまでこだわる。副原料にカカオの殻を使ったりもする。緻密なレシピに基づいてビールを建築するように造るメーカーもあります。呑んだ瞬間に「なるほど。こういうことを表現したかったのね!」と言ってもらえるビールが理想です。

     イメージをビールでどう表現するか。造り手がフレーバーのイメージを明確に描けているかどうかが大切。ぶれていなければ、このビールはこういうことが言いたいと伝わりやすい。例えば1980年代の東京をモチーフにした「TOKYO」というビールがあります。呑む人と造り手がビールを挟んで「おお、なるほど。あの頃の東京だな」「わかってくれた?」と対話しているような感じですね。

    • ビールの原料となる大麦(左)とホップ(右)
      ビールの原料となる大麦(左)とホップ(右)

    材料をふんだんに

     例えばブリュードッグの「パンクIPA」というビールがあります。ちょっと呑んでみてください。苦いけど、ゴクゴクッと呑めるでしょ。明らかに大手のビールと違うはずですよ。麦芽とホップしか入っていないのに、グレープフルーツの香りがするのは、いろんな種類のホップを組み合わせて大量に入れているからです。メインのホップはニュージーランド産のネルソンソービン。普通のビールに比べてホップを40倍、麦芽は倍入れて、10倍の熟成期間をかけます。ホップや麦芽をふんだんに使わないと、風味や香りは引き出せない。いつも呑んでいるビールより風味を強く感じてもらえるはずですし、香りの余韻も長い。

    苦味受け止めるボディー

     パンクIPAとは別なビール、例えば「ハードコア インペリアルIPA」になると、グレープフルーツやオレンジの苦味を、モルト由来のキャラメルの甘味が包み込むような味。苦味が強いのに呑みやすいのは、アルコール度数が9.2%と高いからでもあります。強い苦味がある場合、それを受け止めるしっかりとしたボディーが必要なのです。度数が低くて、強い苦味があると、ニガニガで呑めません。

     ビールの香りを楽しむという習慣は日本ではあまりなかった。これまでビールが呑めなかったという人が、なぜかクラフトビールを呑めたりするんです。ビールが嫌いな人はどういうところが苦手かというと、呑んだときに喉にひっかかる金属っぽい苦味だったりする。でも、ホップの投入の仕方が違えば苦味の質もずいぶんと変わる。新鮮なフルーツの香りのする苦味なら大丈夫という人もいます。

    クラフトビールの源流

     世界的なクラフトビールの出発点はアメリカです。まずはアルコール度数の低くて呑みやすいライトビールがもてはやされた時代がありました。ミラーやバドワイザーといった大手が「ミラー・ライト」や「バドライト」を発表した。これに対して、薄い味のビールが流行(はや)るにつれて、ビール本来の味がなくなっていくことを嘆く愛好家が出てきて、小規模な醸造設備を供えたブルーパブ(brewpub)が復活する。自家醸造でアメリカ産のホップをたっぷり使った苦味のあるビール(アメリカンIPA)をはじめ、個性的なビールを提供するようになる。ここから小規模な製造者が造る個性的なビールが世界中に広がっていくんです。

    • CAMRA主催のビアフェスティバルでは、入場時にグラスを購入し、各醸造所のブースでビールを飲み歩く
      CAMRA主催のビアフェスティバルでは、入場時にグラスを購入し、各醸造所のブースでビールを飲み歩く
    • パブで人気、ボリューム満点のコーニッシュパイ(ロンドンで)
      パブで人気、ボリューム満点のコーニッシュパイ(ロンドンで)

    • ビールファンでにぎわうビアフェスティバル(同)
      ビールファンでにぎわうビアフェスティバル(同)

    CAMRA

     ただ、アメリカからのブームは突然起こったのでなく、その前にイギリスのCAMRAという団体が小規模生産のビールが大事であるという流れをヨーロッパにつくりました。CAMRAは「キャンペーン・フォー・ザ・メインテナンス・オブ・リアル・エール(Campaign for the maintenance of Real Ale)」の略で、伝統的な製法に基づき、(たる)で自然に熟成させたエールを守ろうという運動です。イギリスでは第2次大戦後、大手メーカーがシェアをぐいぐいと伸ばしていきます。1970年代から80年代にかけて、小さな醸造所を買収し、近代的な生産方法を取り入れて大量生産を進めます。パブを傘下におさめて自社製品を置くように求めたことから、手間のかかる少量生産のビールが急速に姿を消していくんです。パブに行くと、ハンドポンプでえっちらおっちら地下の樽から()みあげるようにして入れてくれる昔ながらのエールビールがなくなってきてしまった。「このままでは、自分たちのビールが大手にのみ込まれてなくなってしまうのではないか」と恐れる人たちが出てきます。

    最も成功した消費者運動

     危機感を抱いたビール愛好家たちがCAMRAに集まり、伝統的なエールと、伝統的な飲酒文化を盛り上げる活動を展開。各地の醸造所のビールを1か所で楽しめるフェスティバルを開催したり、パブやビールのガイドブックを発行したりしました。彼らの運動は大きなインパクトを与え、大手メーカーは手間のかかるビールを復活させ、パブで販売するようになりました。世界的なビール評論家で、「ビア・ハンター」と呼ばれたマイケル・ジャクソン氏(故人)がCAMRAの取り組みを「20世紀、ヨーロッパで最も成功した消費者運動」と評したことも、彼らの運動を後押ししました。

     (メディア局編集部 小坂剛)

     

     

    連載「酒都を歩く」(英国編)(ぶりてん数寄)が本になりました。

    • 『酒場天国イギリス』(中央公論新社)
      『酒場天国イギリス』(中央公論新社)


    ◆日本の居酒屋を舞台にした過去の連載企画「酒都を歩く」をまとめた『あの人と、「酒都」放浪 ― 日本一ぜいたくな酒場めぐり』(中央公論新社)はこちらから

    2015年06月23日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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