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    イギリスの食や酒、文化や歴史に魅せられた人のインタビュー、イベントやニュースをお届けします。
    インタビュー

    クラフトビール入門(2)…まずスタイルを知ろう!

    • クラフトビールもウイスキーも語れる元木氏
      クラフトビールもウイスキーも語れる元木氏

     スコットランドの人気クラフトビール「BREWDOG(ブリュードッグ)」の輸入代理店「ウィスク・イー」のイベントディレクターで、パブ文化に詳しい元木陽一氏(43)のインタビュー。2回目は、クラフトビールを楽しむのに欠かせないビールのスタイルです。

    地ビールの淘汰

     日本でも1990年代半ばから、地ビールのブームが起きます。小規模なメーカーでもビールを造れるようになり、地域おこしを狙って多くのメーカーがご当地ビールを造り始めました。大手の酒造会社や第3セクターもありましたが、造り手の技術が未熟だったり、スタイルもよく考えられていなかったりした。地元の特産品としてイチゴ、ミカン、サツマイモをビールに入れてPRしようなんて話もありましたね。「お土産に買ったけど、()んでみると高い割にあまりおいしくなかった」なんていう声とともに、ブームは冷めていきます。最盛期は300社を超える地ビールメーカーがあったそうですが、200社ほどに減りました。

     もともと日本では、ピルスナーに代表される下面発酵のラガービールが中心でしたが、世界中にはいろんなスタイルのビールがある。ラガー、エール、IPA、スタウト、ポーター、バーレーワイン……。でも、地ビールブームのときには、ラガーの製品を作ったところもあった。第3セクターからビール造りに修業にいくには、ドイツでラガーを学んでくることが多かったみたいです。でも、これまで呑んできたラガーと同じスタイルの地ビールを高い値段で売ろうとしても、なかなかうまくいかなかった。

    ビールの二極化

    • クラフトビールにあわせたチーズとハムとパン
      クラフトビールにあわせたチーズとハムとパン
    • 空港の発着表示板を模したビールのメニュー(ブリュードッグ六本木で)
      空港の発着表示板を模したビールのメニュー(ブリュードッグ六本木で)

     日本の小規模なビールメーカーは淘汰(とうた)されて減りましたが、コンペティションで切磋琢磨(せっさたくま)され、しっかりした造り手が増えてきています。小規模な醸造所は地元に根ざしていると思いますが、今は地ビールではなく、クラフトビールと呼ばれています。ご当地ビールという側面より、ビールの味わいそのもので勝負したいという造り手の思いに光が当たっています。

     ここへ来て、日本でもクラフトビールを受け入れる機運が出てきた。背景にあるのは、ビールを巡る二極化の動き。スーパーに行けば、第3のビールが安い値段で売られているし、ノンアルコールビールの品ぞろえも充実してきました。6缶パックで1缶100円以下とお手頃になってきている。もちろんデイリーなものだから、安いのはありがたいけど、ビールはみなさん気持ちで呑んでいますから、どこか物足りないと感じる。そんなときに、少し高くてもおいしいものを呑みたくなるんですよね。

     そもそも日本には様々なスタイルのビールを楽しむという文化があまりなかった。お店の人も「キリンにしますか、アサヒにしますか」とは聞いても、「ラガーにしますか、エールにしますか」とは聞きませんでした。ビールのスタイルを理解することで、ビールの楽しみは無限に広がっていきます。

    スタイルは100種類以上

     ビールのスタイルについて説明しましょう。製法だとか、産地、アルコール度数、色味によって100種類以上のスタイルがあります。ラガーだけでも、ボヘミアンラガー、チェコピルスナーのように何十種類もある。エールでも、アンバーエールやレッドエール、スコティッシュエールといったように……。ビールはウイスキーよりも長い歴史があるし、掘り下げようとすると、ものすごく掘り下がっちゃう。一歩入ると奥が深い。それぞれのビールが生まれた歴史を調べても面白い。

     例えばポーターというビールがあります。港町のロンドンで、荷物を運んでチップをもらうポーターがよく呑んでいたから、その名がついたとも言われます。当時は冷蔵設備がないので、ビールが古くなってくると酸化して酸っぱくなる。そこに色の濃いビールを入れてブレンドしながら、ごまかしながら売っていたのが始まりだそうです。

     それからエールビールは香りを楽しむんだから常温で呑むべきですね、とかよく聞かれるんですが、冷やしたほうがおいしい。日本は湿度が高いですし、1杯目に喉に入れるときには冷えていないとね。ビールがぬるいといって文句を言う人はいても、冷えすぎだと言って文句を言う人はいないでしょう。日本人はやっぱり冷たいビールが好きですからね。

     

    <主なビールのスタイル>(ブリュードッグの資料をもとに作成)
    • ロンドン・カムデンタウンにあるブリュードッグの店舗
      ロンドン・カムデンタウンにあるブリュードッグの店舗
    ・ラガー、ピルスナー…… 下面発酵(発酵中の液面の底に酵母がたまる)で醸造したビールで、キレがあってスッキリしている。低温で発酵するため上面発酵よりも品質が安定する。ピルスナーはチェコのピルゼン地方発祥で、日本の大手メーカーのビールはほとんどがこのタイプ。

    ・エール ……上面発酵(酵母が発酵液面の上部にたまる)で造られるビールで、麦芽とイースト、ホップに由来するコクとフルーティーさが特徴。麦芽の 焙煎 ( ばいせん ) の濃度の割合により色味が異なり、それぞれの色に応じてペールエールやブラウンエール、アンバーエール、ダークエールなどと呼ばれる。ビターやブロンドもこのカテゴリー。

    ・ IPA(インディアペールエール) ……クラフトビールの中で最も人気のあるスタイル。ペールエールよりもホップの苦味が強く、アルコール度数はやや高い。英国から当時の植民地インドへビールを送る際、長い航海に耐えられるように、ホップを大量に使用し、度数を上げて防腐作用を高めた製法が起源とされ、そのスタイルが現在まで残ったもの。近年は度数の低いものもあり、ホップを利かせたビールの一スタイルとして定着している。

    ・ スタウト、ポーター ……深くローストした大麦を使用し、上面発酵で造られるスタイル。色が黒く、深いコクと濃厚なフレーバーを楽しめる(日本の大手メーカーの黒ビールはスタウトではなく、ロースト麦芽を下面発酵で醸造するドイツのシュバルツスタイルを採用している)。ローストが強い方をスタウト、弱い方をポーターとスタイル分けしているところが多い。

    ・ バーレーワイン ……比重値の高いアルコール度数(8%以上)と多めのホップを使用し長く熟成されたもので、ワインという名前だがブドウから造るワインとは全く異なる。麦芽由来の甘さとホップの絶妙なバランスが特徴。

    ・ ヴァイツェン ……ドイツのバイエルン地方発祥で、小麦麦芽を50%以上使用し上面発酵で醸造したもの。フルーティーでクリーミーな喉越し、さわやかな酸味とバナナのようなフレーバーが特徴。色調は白っぽいものから黒っぽいものまで様々。なお、ヴァイツェンとはドイツ語で小麦の意味。

    • スコットランドにあるブリュードッグの醸造所
      スコットランドにあるブリュードッグの醸造所
    ・ インペリアル~~ ……かつてイギリスからロシアへビールを輸出する際、ビールの造り手たちは寒冷地で凍らないようにアルコール度数を高めたタイプをつくり出した。ロシア皇帝に献上されたことから、そのような度数の高いタイプを通常のものと区別するため、「インペリアル(=皇帝)」と呼ぶようになったといわれている。一方で、アルコール度数が何度以上がインペリアル、といった明確な定義はない。インペリアルスタウトやインペリアルIPAなどスタイル名の前に置かれ、タイトルのような使われ方をする。

    ・アメリカン~~、イングリッシュ~~、ベルジャン~~ ……これらは特定のホップやイーストが使われた際に、スタイル名の前に置かれるタイトル。アメリカン~~は、アメリカンタイプのホップを使用し、特に苦味を強調したもの。イングリッシュ~~は、イギリスタイプのホップや麦芽を使用したもので、バランスよく穏やかなものが多い。ベルジャン~~はベルギー酵母を使用して醸造したもので、ヴァイツェン酵母にも似た酸味とフルーティーさが特徴。

     (メディア局編集部 小坂剛)

     

    連載「酒都を歩く」(英国編)(ぶりてん数寄)が本になりました。

    • 『酒場天国イギリス』(中央公論新社)
      『酒場天国イギリス』(中央公論新社)


    ◆日本の居酒屋を舞台にした過去の連載企画「酒都を歩く」をまとめた『あの人と、「酒都」放浪 ― 日本一ぜいたくな酒場めぐり』(中央公論新社)はこちらから

    2015年06月25日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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