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    イギリスの食や酒、文化や歴史に魅せられた人のインタビュー、イベントやニュースをお届けします。
    インタビュー

    クラフトビール入門(3・最終回)…ワインやウイスキーのように

    • スコットランドでの思い出を語る元木氏(ブリュードッグ六本木で)
      スコットランドでの思い出を語る元木氏(ブリュードッグ六本木で)

     スコットランドの人気クラフトビール「BREWDOG(ブリュードッグ)」の輸入代理店「ウィスク・イー」のイベントディレクターで、パブ文化に詳しい元木陽一氏(43)のインタビュー最終回です。

    元バーテンダー

     18歳のとき、銀座でバーテンダーの仕事に就きました。ウイスキーが大好きでした。お客さんを見ていても、自分にぴったりとくる酒に出会うと、黙りこくってしまう。涙を流す人もいました。ウイスキーは何でこんなに人を感動させられるのだろうと不思議でした。いつか蒸留所で働いて、ウイスキーをもっと知りたいと思っていたんです。30歳のときにスコットランドのアラン蒸留所で技師として働けることになり、家族で2年間移り住みました。所長と私だけの小さな蒸留所だったので、ほとんどの工程を教えてもらった。結局、ウイスキーは昔造られたものが今評価されている。我々は次の世代に引き継がなければならないので、手を抜くことはできない。細心の注意を払って丁寧に作業するのはもちろんですけど、同じ蒸留所でも(たる)の種類や置き場所によって様々なフレーバーが生まれてくるのが面白いところ。だから、終わりがない。

    ビールとワインとウイスキー

    • イギリスではパブは街のいたるところにあり、路上にグラスを持った客があふれだす
      イギリスではパブは街のいたるところにあり、路上にグラスを持った客があふれだす

     仕事が終わると、パブに行きました。そこでビールのスタイルの多さを実感しました。エールやスタウト、ラガーといった異なるスタイルのビールがあり、一番人気のあるエールは日替わりでいろんな醸造所のビールが提供されていた。日本だとラガーしか選択肢がなかったので、新鮮でしたね。向こうの人はスタイルの違いをわかっていて、「食後だから、少しどっしりとしたものがいいので、スタウトにしよう」とかいって注文する。

     ビールには、ワインよりもたくさんのスタイルがある。ただ、香りを楽しみ、ゆっくりと味わって()むという点は、ワインの楽しみ方に似ているのかもしれません。

     ウイスキー並みにアルコール度数の高いビールもありますよ。最も高いもので55度。凍結蒸留法といって、氷点の違いを利用して、アイスクリーム工場で造る。アルコール度数10~15%のビールを工場に持っていって、マイナス20度で1週間冷やします。凍った部分と液体にわける作業を繰り返し、凝縮させていく。小さいボトルで1万円を超えちゃう高級品だから、小さなスニフターで呑む。これなんかウイスキーの呑み方に近い。

    個が大事

    • ビールの銘柄ごとにデザインされたハンドポンプ(ロンドンのフラーズ醸造所で)
      ビールの銘柄ごとにデザインされたハンドポンプ(ロンドンのフラーズ醸造所で)

     イギリスの人はお酒を呑むときにものを食べないというじゃないですか。食べ物をみんなでつまみながらワイワイ呑む文化があるのは日本ぐらいだと思います。イギリスのパブでは、個人が自分の分だけ注文するのが基本。仲間であればラウンドといって、一杯ごとにだれかがみんなの分を交代で負担していくこともありますが、食事とビールは別です。お皿にのったつまみはシェアしません。日本人のようにソーセージの盛り合わせをナイフで切って、みんなで分け合うなんてしない。自分の食事は自分のもの。3人で店に行って、だれかがフィッシュ&チップスを頼めば、「私も」「私も」といって3人ともフィッシュ&チップスを注文する。個というか、パーソナルな部分が大事ということでしょうか。

    まずはラガーで比べて

     これからクラフトビールにトライしてみようという人は、まずはラガーを試してみるのがいいかもしれません。強烈な個性はないけれども、普段呑んでいるビールとどこが違うかを感じてください。クラフトビールにはまっている人の多くはIPAだと思います。麦芽やホップがドーンと入っている。香ばしさや苦味、爽快感が特徴です。スタウトやポーターはフレーバーがしっかり入って重厚なので、呑んだときに「これすごいな」ってなるんです。

     ビールとパブのいいところは手頃さ。仕事帰りにパブでビールを一杯呑めば、気分が変わります。1日数百円だったら毎日だって不可能じゃない。クラフトビールは確かに普通のビールより少し値段は高いけれど、これまで知らなかったビールの楽しみがあります。一口にビールと言っても、いろんなタイプがあって、楽しみ方がある。好みのスタイルを見つけて、そのビールが生まれた地域や歴史に思いをはせる。おおげさかもしれませんが、人生が豊かになります。

     【BREWDOG(ブリュードッグ)】

    • スタイルによって色味も大きく異なるビール(ブリュードッグ六本木で)
      スタイルによって色味も大きく異なるビール(ブリュードッグ六本木で)

     2007年にスコットランド北東部のフレザーバラにオープンしたクラフトブルワリー(小規模ビール醸造所)。創業者のジェームズ・ワットが、エディンバラ大学で法律と経済を学んだ後、保守的なビールが増えてきたことを憂えて24歳で創業した。グレープフルーツの香りが特徴の看板商品「パンクIPA」を中心に売り上げを伸ばし、2013年の売り上げは約31億円。生産量の6割以上を世界32か国に輸出している。自社製品を提供するオフィシャルバーを世界に展開しており、2014年3月に六本木に「ブリュードッグ六本木」を開いた。

     【元木陽一氏】

     都立工芸高校室内工芸科(定時制)卒。18歳で銀座のバーテンダーとなり、ウイスキーの希少ボトルの収集や研究を始める。25歳で老舗バー「セント・サワイ・オリオンズ」のチーフバーテンダーとなる。2003年にスコットランドに移住し、蒸留技師としてウイスキー造りに携わる。このときパブ文化に浸り、クラフトビールの奥深さに魅せられる。2005年に帰国し、現在はイベント全般の企画立案や、ウイスキー、クラフトビールのセミナー講師をしている。

     (メディア局編集部 小坂剛)

     

    連載「酒都を歩く」(英国編)(ぶりてん数寄)が本になりました。

    • 『酒場天国イギリス』(中央公論新社)
      『酒場天国イギリス』(中央公論新社)


    ◆日本の居酒屋を舞台にした過去の連載企画「酒都を歩く」をまとめた『あの人と、「酒都」放浪 ― 日本一ぜいたくな酒場めぐり』(中央公論新社)はこちらから

    2015年06月30日 05時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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