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    セクハラやパワハラ、ネット犯罪に対処するための法律の知識が身に着くコラム。

    「言葉のセクハラ」最高裁判決の意義

    相談者 YOさん

    • イラストレーション・藤垣円
      イラストレーション・藤垣円

     私は、ある企業の部長職を務めています。私の部下である課長の1人について、今度退職することになった女性社員よりセクハラの訴えがあり、対応をどうするべきか検討しています。

     その課長は部下の女性社員に対して、「いくつになったの? もうそんな年になるんだ。」、「お給料足りないんじゃない? 夜の仕事とかしないの? 時給は相当いいよ? どんどんやったらいいじゃない」「30歳は、22、3歳の子から見たらおばさんだよ」「もうお局さんだね。若い子から怖がられてるんじゃない?」、「男に甘えたりする? 君はしないでしょ。女の子は男に甘える方がいいよ」、「うちの課の中で誰か一人と絶対結婚しなければならないとしたら、誰を選ぶ?」「君のお父さん絶対浮気しているよ。浮気してない(やつ)なんていないよ」などと日常的に話していました。2人っきりの場では、自分の性器や浮気相手との性交渉に関する発言などもしていたようです。

     当社の就業規則では、禁止行為の一つとして「会社の秩序または職場規律を乱すこと」が掲げられています。就業規則に違反した社員に対しては、その違反の軽重に従って、戒告、減給、出勤停止または懲戒解雇の懲戒処分を行う旨が定められています。また、当社では、セクハラ禁止の文書も作成して社員に配布しています。その中には就業規則における禁止行為の例として、「性的な冗談、からかい、質問」「他人に不快感を与える性的な言動」「身体への不必要な接触」「性的な言動により社員等の就業意欲を低下させ、能力発揮を阻害する行為」などが挙げられています。

     ちなみに、上記のような文書配布のほかにも、年に一度弁護士に依頼して、ハラスメント研修も実施していますが、この課長は研修終了後、皆の前で「あんなことを守っていたら女の子と何も話せないよ」とか「ああいうことを言われる奴は女の子に嫌われているんで、自分は大丈夫だ」などとも話していたようです。

     本人は、その女性社員からは明白な拒否の姿勢を示されておらず、問題となっている言動も許容されていると思っていたなどと主張して、悪びれない風情です。私としては、発言の内容は到底看過できるものではなく、何らかの処分は必要だと考えています。ただ、私が懸念しているのは今回の場合、女性社員に何度も確認しましたが、不適切な内容の発言はあったものの、直接身体を触られたりしたような事実はないということです。セクハラというと、私のイメージでの典型例は女性の体を触ったり、関係を強要したりというものであり、単なる言葉だけだと果たして懲戒処分までして良いのか分かりません。

     本人も「上品とは言い難いかもしれないが、普通の人が話している内容を大きく踏み外してはいない。処分までされるような問題ではない」と強弁しています。

     とはいえ、その余りに下品な内容からして、会社としては女性社員の職場環境を守るためにも、当然、何らかの懲戒処分をすべきかと思いますが、いかがでしょうか?(最近の事例をもとに創作したフィクションです)

     

    (回答)

    言葉のセクハラ、最高裁で会社が逆転勝訴

     最高裁判所は2月26日、職場の部下である女性にセクハラ発言を繰り返した男性を懲戒処分としたことが妥当であったかどうかが争われた訴訟の上告審で、処分を無効とした第2審(大阪高等裁判所)の判決を破棄し、会社側の逆転勝訴判決を言い渡しました。

     具体的には、大阪市の第3セクターである株式会社「海遊館」(水族館運営企業)が男性管理職2人に対して、女性従業員へのセクハラ発言があったことを理由として、それぞれ30日間と10日間の出勤停止とした上で、課長代理から係長に降格させたことが発端でした。

     これに対し、男性管理職側が「セクハラ発言に当たらず、事前に注意や警告もなく処分したのは不当だ」として提訴しました。最高裁判決では、問題となっているセクハラ発言は「職場環境を著しく害するものであったというべきであり、当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる」「出勤停止処分が本件各行為を懲戒事由とする懲戒処分として重きに失し、社会通念上相当性を欠くということはできない」と判断したのです。

     この裁判は、第1審と第2審の判断がわかれました。また、男性は女性に対して身体を触ったりしたことが全くなかったことから、「言葉のセクハラ」事件として、判決前からメディアで取りあげられ注目を集めていましたが、ようやく決着がついたわけです。

     翌日の新聞各紙は「言葉のセクハラ懲戒妥当 最高裁企業の厳格対応支持」「セクハラ発言 処分『妥当』」「セクハラ発言 降格妥当」「警告なく懲戒『妥当』」「警告なしでも処分妥当」など大きく取りあげ、世間の関心の高さが示されました。

     今回の相談は、まさに「言葉のセクハラ」に関わる事案です。

     上記事件の第1審、第2審をふり返りながら、最高裁がどのような判断を下したのかについて説明したいと思います。なお、セクハラに関しては、2013年2月27日付「営業課長が新入社員にセクハラ どうすればいい?」でも取り上げており、セクハラに関する基礎知識はそちらで説明しておりますので、ご参照下さい。

    2015年03月11日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    蒲俊郎 (かば・としろう
    弁護士(第二東京弁護士会所属)
    城山タワー法律事務所代表
    http://www.shiroyama-tower.com/
    桐蔭法科大学院・教授
    http://toin.ac.jp/lawschool/teacher/kaba/
    桐蔭法科大学院・法科大学院長
    http://toin.ac.jp/lawschool/info-top/message2/
    日本法律家協会会員、日本私法学会会員、情報ネットワーク法学会会員他
     専門分野は、電子商取引全般、労働事件(使用者側)、会社商事関係全般等
     多数の企業の顧問弁護士として日々活動するほか、複数の上場するネット企業の社外監査役なども務める。他方、2010年4月、ロースクールのトップである法科大学院長に就任し、多忙な弁護士業務の傍ら、次の時代を担う法曹の育成にも注力している。
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