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    セクハラやパワハラ、ネット犯罪に対処するための法律の知識が身に着くコラム。

    裁判で懲役刑の年数はどうやって決まるの?

    相談者 I.Nさん

    • イラストレーション・藤垣円
      イラストレーション・藤垣円

     私は相次ぐ児童虐待事件に胸を痛め、数年前から母親が集うサロンを開いています。

     子育てに追われるママたちに息抜きの場を提供し、育児の悩みを自由に打ち明けられるようにするためです。そんな私がつい最近、新聞を読んでいて「こんなのありえないわ」と思わず叫んでしまう記事に出くわしました。

     その記事は、両親が子どもを虐待死させたという傷害致死事件を扱ったもので、裁判員裁判で懲役15年という重い判決が出たのに、最高裁判所が、それを覆してより軽い刑にしたと書いてありました。最高裁判所は、過去の裁判結果との公平性を保つ必要性があると考えてこのような判断を下したとのことですが、一般市民の感覚を裁判に反映させることが目的の裁判員裁判なのに、このようなことが行われたのでは、意味がないのではないかと思いました。紙面には「ほかの傷害致死事件とは悪質性がまるで違うのに、過去の量刑傾向に合わせた判決になるのは残念でならない」との、裁判員の方のコメントも載っていました。

     この事件は、極めて悪質な児童虐待で子どもを死なせた事案なので、過去の例に比べて重い刑が言い渡されても何らおかしくはないはずです。私はサロンでみんなの意見を聞いてみましたが、「子どもを虐待死させた親には重い罰を科すべきだ」という意見が大勢を占めました。これが世間一般の感覚ではないでしょうか。私には法律の世界のことはよくわかりません。そこでお聞きしたいのが、刑事事件での懲役刑の年数がどのような基準で決まるかという点です。人を1人殺したら何年、お金をいくら盗んだら何年などというように、何か基準があるのでしょうか。そして、その基準は私たちの市民感覚よりも重視されるべきものなのでしょうか。(最近の事例をもとに創作したフィクションです)

    (回答)

    求刑超え裁判員判決の破棄

     今年7月25日、新聞に「求刑超え裁判員判決 破棄」「求刑1.5倍判決を破棄」といった見出しが躍りました。幼児を虐待したとして傷害致死罪に問われた両親に対し、求刑の1.5倍の懲役15年の判決を言い渡した裁判員裁判の量刑判断の是非が問われた事件の上告審で、最高裁判所が、刑事裁判に国民の視点を入れるために導入された裁判員裁判といえども「他の裁判の結果との公平性が保持された適正なものでなければならない」との初の判断を示したからです。結局、1審、2審の判決は破棄され、父親を懲役10年、母親を同8年と、原審から大幅に軽減する判決が言い渡されました。いずれも同種事犯に対する過去の判決結果と同水準の刑に落ち着いたわけです。これは最高裁判所の判断ですから、この判決によって、この2人の刑は確定したことになります。

     しかし、裁判員裁判は、本来、市民の日常感覚や常識を裁判に反映させるとの趣旨で導入された制度であり、その趣旨を考えると、ある意味、従来の刑と乖離(かいり)が生じるのは当然とも言えるはずです。今回の判決は、市民感覚が反映された裁判員裁判における結論を直接見直した初めての判断であり、裁判員裁判制度自体の当否に絡んで議論になっています。第1審で裁判員を務めた男性は、取材に対して、「ほかの傷害致死事件とは悪質性がまるで違うのに、過去の量刑傾向に合わせた判決に残念でならない」と答えたとのことですし、識者からも、国民の良識の反映が制度の根本なのにこれでは裁判員裁判の意味が失われるといった意見なども出ています。

     そこで、今回は、新聞などでよく見る、「懲役10年」といった刑が、どの様な手順で導かれるのかという、刑事裁判における量刑の問題について説明してみたいと思います。

    刑事裁判における量刑とは

     裁判所は、適用すべき刑罰法規の定める「法定刑」につき、刑法を適用して定まる処断刑の範囲内で、自らの裁量によって刑の種類とその量を決定し、被告人に宣告することとなります。この過程を「量刑」とか「刑の量定」といいます。

     法定刑とは、例えば、刑法第199条の殺人罪であれば「死刑(また)は無期()しくは5年以上の懲役」、今回問題となっている刑法第205条の傷害致死罪であれば「3年以上の懲役」、と刑法などの刑罰法規に定められている刑を言うわけですが、「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」と法定刑が定められている殺人罪でも、法定刑の下限を下回る懲役3年といった判決が出る場合もあります。

    同じ「1人死亡の傷害致死」でも全く異なる刑

     今回問題となった幼児虐待事件では、傷害致死罪が認定されたわけですが、最近話題になった同様の刑事事件で言えば、「鴻巣市乳児ゆさぶり暴行事件」(父親が生後1か月の乳児に揺さぶるなどの暴行を加え死なせた事件)では、傷害致死罪に問われた無職の父親が懲役7年(求刑懲役8年)を言い渡されました。また「六本木襲撃事件」(東京六本木のクラブで、暴走族のメンバーらが、グループと対立する人物と間違えて無関係の男性を金属バットなどで殴り死亡させた事件)では、メンバーの一部が傷害致死罪で、懲役13年(求刑懲役15年)を言い渡されました。さらに、「梅田ホームレス襲撃事件」(大阪・梅田で、少年らがホームレスの男性を襲い殺害した事件)では、少年らに懲役5年以上8年以下などの不定期刑を言い渡しています(少年の場合には、あらかじめ刑期を定めず改善状況に応じて刑を終了させる不定期刑が定められています)。このように、同じく1人の命が失われた傷害致死事件であっても、言い渡される刑が全く異なるわけです。

    様々な事由で決まる刑の重さ

     では、どのようにして、刑の種類とその量は決められるのでしょうか。

     量刑は、まず、法定刑として、2種以上の刑罰が選択的に規定されている場合、例えば、刑法第235条の窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」とされており、「懲役」と「罰金」という刑罰が選択的に規定されていますが、この場合には、いずれかの刑の種類の選択を行うこととなります。例えば、被害が少額の万引きなどでは、懲役刑にはならず罰金だけで済むことが多いでしょうが(そもそもお店との間の私的な示談で済み、刑事事件に発展しないことも多いと思いますが……)、被害額が大きかったり計画的であったりすれば懲役刑が選択されます。

     次に、刑を加重したり減軽したりする事由がある場合には、それに基づいた加重減軽を行うことになります。刑法の規定には、いくつかの加重減軽事由が規定されており、<1>再犯加重、<2>法律上の減軽、<3>併合罪の加重、<4>酌量減軽の順序で加重減軽されることとなります。

     <1>の「再犯加重」とは、1度刑を科されたにもかかわらず再び犯罪を行ったような場合には、強い非難が加えられるべきという理由と、犯罪を繰り返す行為者の反社会的危険性に対して保安的観点から対処する必要があるとの理由から、その罪について法定された懲役の長期の2倍まで刑を加重することができるとされています。例えば、窃盗罪では、「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」とされていますので、再犯の場合には、10年の2倍である20年の懲役まで刑を加重することができることになります。

     <2>の「法律上の減軽」には、減軽が必要的な場合と裁量的な場合があります。必要的な場合とは、心神耗弱、中止未遂、従犯などがあり、裁量的な場合とは、過剰防衛、過剰避難、法律の不知、自首などがあります。皆さんがよく刑事ドラマなどで耳にするのは、過剰防衛(例えば、居酒屋で隣り合わせた客に因縁をつけられて、相手が殴りかかって来たので反撃したら、思わぬ大けがをさせてしまったなど)や自首などかと思いますが、刑事事件では、その他の事由も含めて問題とされます。

     どのように減軽されるかは細かい話ですので割愛しますが、例えば、有期の懲役を減軽するときは、長期及び短期の2分の1を減ずるとされていますので、「1年以上10年以下の懲役」の法定刑である営利目的誘拐罪において、自首した場合には、「6月以上5年以下の懲役」に減軽されることとなります。

     <3>の「併合罪の加重」とは、確定判決を経ていない2個以上の罪を犯している場合を指すのですが、これも難しい話になりますのでここでは割愛します。

     <4>の「酌量減軽」とは、犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、上述の法律上の減軽と同様に、刑を減軽できるものです。犯罪の情状とは、犯行の動機、方法、結果、社会的影響や、犯人の年齢、性格、経歴、環境、犯罪後における犯人の態度などとされています。酌量減軽をするか否かは、専ら裁判所の裁量権に属するとされており、法律上加重されたり減軽されたりする場合でも、酌量減軽することができます。例えば、営利目的誘拐罪で自首した犯人が酌量減軽される場合、法律上減軽された「6月以上5年以下の懲役」が、さらに「3月以上2年6月以下の懲役」に減軽されることとなります。

     このように法定刑に加重減軽を施して得られたものが処断刑といわれるものであり、この処断刑の範囲内で裁判所は宣告刑を決定して言い渡すこととなります。そして、刑法には量刑の基準に関する包括的な規定は置かれておらず、情状や求刑、量刑に関する関係者の嘆願書など、法廷に現れたすべての事情を斟酌(しんしゃく)して、「裁判所の裁量」によって量刑を行うこととなります。

    2014年11月12日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    蒲俊郎 (かば・としろう
    弁護士(第二東京弁護士会所属)
    城山タワー法律事務所代表
    http://www.shiroyama-tower.com/
    桐蔭法科大学院・教授
    http://toin.ac.jp/lawschool/teacher/kaba/
    桐蔭法科大学院・法科大学院長
    http://toin.ac.jp/lawschool/info-top/message2/
    日本法律家協会会員、日本私法学会会員、情報ネットワーク法学会会員他
     専門分野は、電子商取引全般、労働事件(使用者側)、会社商事関係全般等
     多数の企業の顧問弁護士として日々活動するほか、複数の上場するネット企業の社外監査役なども務める。他方、2010年4月、ロースクールのトップである法科大学院長に就任し、多忙な弁護士業務の傍ら、次の時代を担う法曹の育成にも注力している。
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