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    セクハラやパワハラ、ネット犯罪に対処するための法律の知識が身に着くコラム。

    購入した家で前所有者が餓死…説明なしでいいの?

    相談者 A.Aさん

    • イラストレーション・藤垣円
      イラストレーション・藤垣円

     この春、待望のマイホームを購入しました。古い家ですが、長年大事に使われていたようで、多少のリフォームをしただけで見違えるような建物になりました。駅からやや遠いとはいえ、勤務先まで45分で行けますし、スーパー、学校、病院などもすぐ近くにあり全く不便さは感じません。

     何より、ついに一国一城の(あるじ)になったという満足感が大きく、同僚からの飲み会の誘いも振り切って、仕事が終わったらただちに帰宅し、妻とゆっくり晩酌などしています。世間では、賃貸派と持ち家派のどちらが得かという議論があるようですが、個人的には、所有しているという満足感が何物にも代えられないと思っています。

     そんな私に、突然大きな災難がふりかかってきました。その発端は、妻が、地元のコーラスグループに入ったところ、古くから近くに住んでいる人から、嫌な(うわさ)を聞いたことでした。何年も前になるそうですが、この家で、以前の所有者が不審な死に方をしたというものでした。一時は、警察も来てちょっとした騒ぎになったそうです。ただちに、不動産売買を仲介した業者を問いただしたところ、この家には長年、90代の母親と60代の娘が住み、寝たきりの母親を娘が看病していました。冬のある日、台所にいた娘が突然脳梗塞で倒れそのまま死亡、ベッドの上の母親は誰からも面倒を見てもらえずに餓死したということです。娘が姿を見せないことを不審に思った近所の人が警察に通報、母娘が発見された時には死後かなりの日数がたっていました。結局、何の事件性もなく終わったのですが、その後、寝たきりの母親を全く顧みずに気ままな生活を送っていた息子が現れて不動産を相続、今回の売却に至ったそうです。仲介業者は、この件を買い主にきちんと説明しておいた方がいいと勧めたそうですが、その息子は急に不機嫌になって、「別に殺人事件があったり、誰かが自殺したりしたわけじゃないんだから、一々説明などする必要はない。そんなこと言ったら値段が下がるかもしれないじゃないか。オレだって今後の生活設計があるんだ」と言って譲らなかったそうです。結局、私は相場価格でこの家を買うことになってしまいました。この経緯について詳しい人に聞いたところ、その息子が言うように自殺者が出たり、殺人事件があったりしたような物件のことを事故物件とか訳あり物件と言い、その事情を隠して不動産を売却した場合は責任を追及できるが、病死とかだと難しいのではないかという意見でした。ただ、私としては、そのような不動産なら購入しなかったと思いますし、仮に購入したとしても、必ず値引き交渉をしたはずです。先日も夜中にトイレに行った時、台所の方に人のいるような気配がして思わず振り返ってしまいました。ベッドで天井を見上げていると、この家で人が餓死したんだ、(つら)かっただろうなあなどと考えてしまいます。私はどのように対応すればよいでしょうか(最近の事例をもとに創作したフィクションです)。

    (回答)

    自殺物件を巡る報道

     今月初め、不動産仲介業大手が、福岡市内の2件のマンション物件について、以前の入居者が室内で自殺したことを説明せず、新たな入居者に賃貸して問題となったことが報道されました。社内システムに物件情報が入力されていなかったことが原因とのことであり、同社は、物件の説明義務を定めた宅地建物取引業法に違反した可能性があるとして、入居者に謝罪したとのことです。

     詳しい事実関係が分からないので、この業者の対応に対するコメントは差し控えますが、ネットでは、「謝罪して済むような問題か」という趣旨の書き込みがある反面、「相場より賃料が安いなら問題ない」「気にならない」といった趣旨の書き込みもあり、この手の問題に対する人の受け止め方の違いを反映し、事件への評価も分かれているようです。現に、賃料や販売価格の割安さに着目し、この手の物件の購入を希望する人を対象とした、専門の不動産業者も存在しています。

     ただ、一般的には、新しく住み始めた賃貸住宅で、自分の前の住人が、その部屋で自殺していたり、自殺でないとしても不審な死を遂げていたり、場合によっては殺害されていたというような場合、それが分かっていたら引っ越してこなかったのに……と考える人が多いと思います。もちろん、そういう事実に無頓着で気にならない人だとしても、だったら賃料の減額交渉をしたのに、ということにもなるでしょう。

     過去に自殺といった死亡事故が起きるなど、心理的に敬遠される事情を抱えた不動産物件は、業界で「事故物件」とか「訳あり物件」などと呼ばれています。これは報道された事件のような賃貸物件ばかりではなく、物件を購入する場合にも同様にあてはまります。今回は、そういった物件を、事情を知らずに購入してしまった場合、どのような対応を取ることができるかという相談となります。

    「事故物件」の定義・内容

     「事故物件」とは「訳あり物件」などとも呼ばれ、法的に明確な定義があるわけではありませんが、一般的には、販売や賃貸を予定するマンション・アパートの部屋や、土地、家屋などの物件において、以前、自殺、殺人、火災などによる焼死、不審死、事故死などの人の死亡に関わる事件があった場合を指すと説明されたりしています。こうした物件は、居住したり購入したりするにあたり、通常は心理的な抵抗が生じるので、「心理的瑕疵(かし)物件」などとも呼ばれています。なお、事故物件という場合、過去に大雨による床下・床上浸水があった物件、地震による損傷、雨漏りや白アリ被害のある物件なども含めて理解する場合もあります(「物理的瑕疵物件」などと呼んで上記「心理的瑕疵物件」と区別されたりします)。そして、物理的瑕疵物件は比較的分かりやすいですが、心理的瑕疵物件は、冒頭報道に対するネット上での反応を見ても分かるように、取引当事者の主観的事情に左右されることから、取引の際に説明するべきかどうかについて判断に迷うケースもでてくるわけです。特に、事故物件ということになると、売買価格や賃料価格が、相場より著しく安くなりますので(2~3割程度、場合によっては半額以下ということもあるようです)、この点の判断が重要となってくるわけです。

    判決でも曖昧な基準が

     ちなみに、大阪高等裁判所・昭和37年6月21日判決は、売買の目的物となった建物内で()死した事実が問題となった事案ですが、以下のように判示しています。

     「売買の目的物に瑕疵があるというのは、その物が通常保有する性質を欠いていることをいうのであって、右目的物が家屋である場合、家屋として通常有すべき『住み心地のよさ』を欠くときもまた、家屋の有体的欠陥の一種としての瑕疵と解するに妨げない。しかしながら、この家屋利用の適性の一たる『住み心地のよさ』を欠く場合でも、右欠陥が家屋の環境、採光、通風、構造等客観的な事情に原因するときは格別、それが、右建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景など客観的な事情に属しない事由に原因するときは、その程度如何(いかん)は通常これを受取るものの主観によって左右されるところが大であり、本件で控訴人が瑕疵ありと主張する右事由は正にこの種のものに該当することが明らかである。

     ……瑕疵といいうるためには、単に買主において右事由の存する家屋の居住を好まぬというだけでは足らず、さらに進んで、それが、通常一般人において右事由があれば『住み心地のよさ』を欠くと感ずることに合理性があると判断される程度にいたったものであることを必要とする、と解すべきである」

     この判決では、「住み心地のよさ」を欠くと感ずることに合理性があるかどうかという、非常に曖昧な基準が示されているだけであり、特段の明確な基準が提示されているわけででもなく、実務上は、過去の裁判例を参考にしながら、個別に判断していくしかないわけです。ちなみに裁判所は、心理的瑕疵の有無とその程度を判断するにあたっては、問題となった事件の内容のみではなく、事件の重大性、経過年数、買い主の使用目的、近隣住民に事件の記憶が残っているかどうかなどを総合的に考慮して判断しており、一層、基準が不明確になっています。

    2014年06月25日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    蒲俊郎 (かば・としろう
    弁護士(第二東京弁護士会所属)
    城山タワー法律事務所代表
    http://www.shiroyama-tower.com/
    桐蔭法科大学院・教授
    http://toin.ac.jp/lawschool/teacher/kaba/
    桐蔭法科大学院・法科大学院長
    http://toin.ac.jp/lawschool/info-top/message2/
    日本法律家協会会員、日本私法学会会員、情報ネットワーク法学会会員他
     専門分野は、電子商取引全般、労働事件(使用者側)、会社商事関係全般等
     多数の企業の顧問弁護士として日々活動するほか、複数の上場するネット企業の社外監査役なども務める。他方、2010年4月、ロースクールのトップである法科大学院長に就任し、多忙な弁護士業務の傍ら、次の時代を担う法曹の育成にも注力している。
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