<速報> 空自浜松基地所属のヘリ、通信途絶える
    文字サイズ
    セクハラやパワハラ、ネット犯罪に対処するための法律の知識が身に着くコラム。

    妻と離婚したら自分の退職金と年金はどうなる?

    相談者 KCさん

    • イラストレーション・藤垣円
      イラストレーション・藤垣円

     元旦に届く年賀状を見るのがとても苦痛です。年賀状には友人、会社の部下、親戚達たちの子どもの毎年の成長ぶり、つまり「生まれた」「幼稚園に入った」「子どもと海外旅行にいった」という、いわゆる家族の幸せぶりを伝える写真がこれでもかというほど写っています。

     「子どもがいる私たちの幸せをあなたにも分けてあげたい」的な気持ちが見え見えで、私の苦痛をますます増幅させるのです。そして、その苦痛の原因が妻にあることがわかっているだけに、1年の始まりはどんよりした憂鬱(ゆううつ)な気分になるのです。

     私たち夫婦には子どもがいません。身体的事情で子どもを作れないというわけではなく、妻が望んでいないからです。それが原因で、今、妻と離婚すべきかどうかで悩んでいます。

     妻とは学生時代に知り合って、3年の交際の後、私が就職すると同時に結婚しました。それから30年近くたちました。結婚当初は、周りからは理想的なカップルなどと言われましたが、実は2人の仲はもう10年以上もうまくいっていません。その原因は、子どもを作るかどうかということにありました。妻は派手な生活を好み、「子どもができて自分の生活が犠牲になるくらいなら、子どもはいらない」と言い続けています。「あなたも、ぬかみそ臭い女なんていやでしょう」と毒づく始末です。一方、私は子どもが欲しくてたまらず、周りの友人らの子どもを見ると自分の生活が味気なく思えて仕方がありません。やがて、子どもを作るかどうかで、2人の間には口論が絶えなくなり、2人の関係は冷え切っていきました。最近では離婚の話も出て来るようになりました。

     「おれは決めた。離婚するしかない」

     元旦に子どもがたくさん写っている年賀状を見て、私は心の中でつぶやきました。ただ、私ももうすぐ50歳です。そろそろ定年退職のことや、それに伴う老後のことを考え始めています。離婚によって、自分の老後の生活が成り立たなくなることが心配です。

     自分の年齢からいって、仮に再婚して子供子どもができた場合、子供子どもの学費や私の老後を支えてくれるのは、言うまでもなく、退職金と年金になります。私は、それなりの規模の企業に勤務していますので、退職金もある程度出ますし、年金も充実していますが、それが離婚によってどれほど目減りするのか分からず不安です。離婚によって、この2つはどのような影響を受けるのかを教えていただけますか。(最近の事例を参考に創作したフィクションです)

    (回答)

    年金分割制度によって熟年離婚が増加?

     7年ほど前の2007年5月23日付読売新聞朝刊に「『熟年離婚』揺れてます 年金分割相談1万件超」との記事が載っていました。離婚後に厚生年金を夫婦で分ける「年金分割」の制度が始まったことに伴い4月の相談件数が1万1957件に急増したことを報じています。記事では実際の請求件数が計293件にのぼったことを取り上げた上で、社会保険庁による「熟年夫婦の関心が高い」「請求件数は予想していたよりは少なかった」とのコメントを掲載しています。

     この記事が取りあげている「年金分割」とは、2007年4月1日以後に離婚をして一定の条件に該当したとき、当事者の一方からの請求によって、婚姻期間中の厚生年金記録を当事者間で分割することができる制度のことを言います(後に詳しく説明します)。つまり、妻が夫の厚生年金を最大半分まで受け取れることになり、従来、妻がずっと専業主婦だった場合、離婚後、厚生年金が受け取れなかった制度を抜本的に変更したわけです。

     当時は、この制度変更によって、妻が老後の生活費を確保することができるようになり、熟年離婚が急増するのではないかとも言われていましたが、厚生労働省が発表する人口動態調査では、特に2007年以降、離婚件数が増加したという現象も見られませんでした。当時、「離婚したら年金が半分もらえる」と単純に思っていた人も多かったようですが、実はそれは誤解であって、いざ年金分割でもらえるようになる金額を算定してみたら、老後の生活を確保できるほどの金額にならないので、制度の利用をあきらめた人も多かったとも言われています。

     今回のご相談は、老後を支えてくれるはずの年金や退職金に対して、離婚がどのような影響を及ぼすのか(夫婦のそれぞれがどの程度取得できるのか)という内容であって、関心を持たれる方も多いのではないかと思います。以下、年金の問題、続いて退職金の問題について説明していきたいと思います。

    3階建て年金制度の不都合

     日本の年金制度は、国民全ての基礎年金である国民年金(1階部分)、厚生年金保険及び共済年金(2階部分)、厚生年金基金や国民年金基金(3階部分)の3階建ての構造になっているとよく言われます。

     国民年金の老齢基礎年金(1階部分)は、生活の基本的な部分に対応する年金で、夫および妻の各人に対して支給されますが、厚生年金保険・共済年金の老齢厚生年金等(2階部分)は、被保険者本人のみに対して支給されることとなります。つまり、夫婦のうち、夫だけが働き、夫のみが厚生年金保険等(2階部分)の被保険者となっている場合(夫がサラリーマンや公務員の場合)には、夫は老齢基礎年金(1階部分)と老齢厚生年金等(2階部分)の両方を受給できる一方、妻は老齢厚生年金(2階部分)は受給できず、老齢基礎年金(1階部分)のみを受給することができるに過ぎないこととなります。

     この点、妻は家の中で家事を行い、夫が職場で頑張って働けるように支え続けてきたにもかかわらず、離婚した場合、老齢基礎年金(1階部分)のみしか受給できないことになり、年金を受給できる年齢になっても十分な所得水準を確保できず、不公平だと言われてきました。

     ちなみに、基礎年金は、20歳から60歳までの40年間、未納等もなくきちんと保険料を納めてきても、年額で、772,800円(2014年4月現在)で、月額にしたら64,400円にしか過ぎません。つまり、もし離婚したら、妻はその少ない年金で老後を過ごさなければならないのに対し、夫は基礎年金に加えて厚生年金がもらえることから、妻がもらう額よりかなり高額の支給を受けることになるわけです。離婚をしないで一緒に暮らし、お互いの年金をあわせて生活すればそれなりの生活を送れるのに、離婚したとたんに妻の経済状態が一方的に悪化するということです。

     この点、裁判所も、実務的には不公平解消のため扶養的な財産分与として定期的にお金を支払うよう命じたりしていましたが、夫が死亡してしまった場合にはもらえなくなるといった不都合を解決することはできませんでした。

    年金分割制度の創設

     その不公平解消のため、冒頭で取りあげたように、2007年4月から、厚生年金保険・共済年金(2階部分)の被用者年金にかかわる報酬比例部分の年金額の基礎となる標準報酬等について、夫婦であった者の合意または裁判によって分割割合を定め、その定めに基づいて、妻(妻が働いている場合には夫)からの請求によって、厚生労働大臣等が、標準報酬等の改定または決定を行うという「離婚時年金分割制度」が導入されることとなったのです。

     ちょっと用語が難しいですが、簡単に言えば、結婚している期間に支払ってきた年金のためのお金については夫婦が共同で納めたものとみなして、それぞれの将来の年金額を計算しようというものです。

     この制度によって、夫のみが働いて厚生年金保険等(2階部分)の被用者年金の被保険者となっている夫婦が離婚した場合、婚姻期間中働いていなかった妻が夫の標準報酬等の分割を受けることができるようになります。その結果、妻は老齢基礎年金や老齢厚生年金の受給資格を得れば、新たに算定される金額の厚生老齢年金(2階部分)を「自分自身のものとして」受給することができることとなりますので、夫が死亡しても、ずっと受給することができることとなります。

    2014年05月14日 09時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    蒲俊郎 (かば・としろう
    弁護士(第二東京弁護士会所属)
    城山タワー法律事務所代表
    http://www.shiroyama-tower.com/
    桐蔭法科大学院・教授
    http://toin.ac.jp/lawschool/teacher/kaba/
    桐蔭法科大学院・法科大学院長
    http://toin.ac.jp/lawschool/info-top/message2/
    日本法律家協会会員、日本私法学会会員、情報ネットワーク法学会会員他
     専門分野は、電子商取引全般、労働事件(使用者側)、会社商事関係全般等
     多数の企業の顧問弁護士として日々活動するほか、複数の上場するネット企業の社外監査役なども務める。他方、2010年4月、ロースクールのトップである法科大学院長に就任し、多忙な弁護士業務の傍ら、次の時代を担う法曹の育成にも注力している。
    大手町モールのおすすめ
    帆布鞄
    PR情報
    大手町モール
    ブランディア
    アーカイブ